2001 年 5 巻 2 号 p. 121-127
目的:鼻咽腔は音声表出のみならず嚥下時においても閉鎖される.その目的は,音声言語活動では,発音時の呼気の鼻腔漏出を防止し,嚥下時においては食塊の鼻腔への逆流を防止することである.鼻咽腔閉鎖機能の中心的役割を担う口蓋帆挙筋活動は,音声言語活動時においては負荷刺激の大きさに応じて調節されていることが明らかになっているが,嚥下時における刺激の強さに応じてどのように調節されているかは明らかになっていない.本研究は,健常者を対象に水嚥下量に応じて口蓋帆挙筋活動が変化するどうか,ならびに嚥下時同様に鼻咽腔が閉鎖されるblowing時の口蓋帆挙筋活動と活動量にどのような相違があるかを検討することを目的として行った.方法:3人の健常成人を被験対象とした.個々の被験者には,3ml,5ml,10mlの水を各々5回嚥下することと最大努力での10秒以上のblowi㎎を指示し,その際の口蓋帆挙筋活動を経口指使に刺入したhooked wire electrodeを用いて双極誘導で導出記録した.筋活動の分析は,積分筋電図を用いて,嚥下時には積分波形のpeakを,blowi㎎時には0.2秒ごとの活動を対象とした.結果:blowing時の最大筋活動を基準とした時の各被験者の嚥下時の筋活動は,被験者ごとに様々であり,一定の傾向はうかがえなかった.しかしながら,個々の被験者では,ANOVAの結果,嚥下量の相違に関わらず,嚥下時の筋活動はほぼ一定であり,この傾向はすべての被験者に共通していた.結論:10ml以下の水嚥下時の口蓋帆挙筋活動は嚥下量に応じて変化する可能性が低いこと,ならびに最大努力でのblowing活動での口蓋帆挙筋活動との関係は被験者ごとに様々であることが示された.