2001 年 5 巻 2 号 p. 113-120
ペースト状の食物について,温度(10,25,50℃)と物性(硬さ,降伏応力)が官能評価および舌運動に及ぼす影響について検討を行った.試料として,増粘剤を添加した「にんじん」およびバターを添加した「さつまいも」の2種を用いた.硬さおよび降伏応力の温度依存性が顕著にみられたものはバター添加試料の「さつまいも」であり,これに比べると増粘剤添加試料の「にんじん」は温度依存性が小さく,どちらの試料も温度の高いものほど硬さおよび降伏応力は小さかった.官能評価による飲み込み特性において,バター添加試料の「さつまいも」は,供出温度が10℃から50℃の範囲では供食温度が高いほうがよりなめらかで飲み込み易いと評価された.おいしさにおいて,「さつまいも」は50℃試料が10℃,25℃試料に比べおいしいと評価された.逆に「にんじん」では10℃試料が25℃,50℃試料に比べおいしいと評価され,低温域で好まれた.官能評価でおいしいと評価された温度帯の試料は飲み込み回数が少なかった.超音波断層法による舌運動では「さつまいも」において温度による差が認められ,温度の高いものほど,陥凹深度が深くなる傾向を示した.
口内感覚を表す官能評価および舌運動において,「さつまいも」では有意に温度による差が認められたが,「にんじん」においては有意差は認められなかった.これは,力学的物性における温度依存性が,「さつまいも」に比べ「にんじん」は小さく,ヒトの口内感覚では認知できない範囲での変化であったと推察される.