2003 年 7 巻 1 号 p. 34-40
軟口蓋挙上装置(以下PLP)は軟口蓋挙上困難に伴う鼻咽腔閉鎖機能不全により生じる構音障害の改善に有効とされている.しかし一般的に用いられるPLP(以下ハードPLP)は軟口蓋挙上位での固定性が強く,装着による違和感,唾液嚥下や摂食・嚥下時の困難さを認め,長時間の装着が困難な症例が多い.今回我々の施設では,軟口蓋挙上部に弾力のある可動性をもたせたモバイルPLP (Fujishima type) を考案試作した.これを装着し,構音障害の改善と同時に,摂食嚥下に対する問題点の軽減が得られた3症例を経験したので,紹介する.モバイルPLPは挙上部の支持素材を通常の金属ワイヤーから矯正用弾性ワイヤーに代え,挙上部が軟口蓋を微力で挙上しつつも,可動性が保てるように製作したものである.また粘膜面は十分な研磨とマニキュア塗布により接触面との抵抗を減らした.今回の適応は,ハードPLPにより構音障害の改善が期待された3症例に対して,構音改善と共に嚥下に悪影響を与えない目的で,モバイルPLPを製作した.またハード,モバイル,PLP無しでの会話明瞭度,Blowing時間,装着による食物摂食嚥下能力,日常生活での装着状況と機能予後を評価した.全例においてハードPLPと同等レベルの会話明瞭度の改善を認めると同時に未装着時と同等レベルの摂食嚥下能力が保たれた.また装着による違和感もハードPLPに比べ軽減し,摂食時も含め日中大部分の時間で装着が可能であった.また賦活効果については,長期フォローが可能であった2例において,経過中に機能改善が得られ,1年後にはPLP装着無しで会話明瞭度1となった.モバイルPLPは構音障害の改善が得られながらも,装着に伴う摂食・嚥下機能の低下は認めず,患者の機能面のみならず,QOL向上にも有効な装置と考えられた.