日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
臨床報告
摂食・嚥下障害に対する理学療法
―特に徒手的治療手技を試みた脳障害の2症例―
森 憲一千葉 一雄太田 清人増井 健二梅木 速水浮田 紫乃権藤 要
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2003 年 7 巻 2 号 p. 151-158

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抄録

[目的]脳障害により摂食・嚥下障害を呈した2症例に対し徒手的治療手技を試み,治療効果とその持続性について考察した.[症例1]79歳男性.発症後6ヶ月間,経鼻経管と気管カニューレを留置された脳梗塞右片麻痺.BDM法にて気管内色素混入を認めた.頸部・体幹(特に舌骨上筋群)に着目した徒手的治療手技を施行.5週後にはBDM法にて気管内色素混入を認めず,気管カニューレ抜管,経口摂取可能となった.[症例2]64歳女性.全身的に過緊張が顕著な四肢麻痺.正常圧水頭症によりシャント術施行後,1年8ヶ月経過し,食事摂取量が約6割であった.食事場面において出現する頸部・顔面の過緊張が咀嚼・嚥下運動を阻害する因子であると考え,姿勢緊張の調整,頸部・顔面筋の過緊張軽減と短縮筋の伸張を中心に治療を試みた.治療直後の過緊張軽減と食事摂取量増加は見られたが,治療日以外の増加は得られず,安定しなかった.ケアに関わるスタッフに知識・技術の伝達と情報交換を行い,福祉用具の変更とポジショニングの徹底を促したところ,約9割の安定した摂取量が得られた.[臨床的検討]咀嚼・嚥下運動を阻害する筋の硬さを,生理学的な筋収縮と病態生理学的な短縮に区別し,対象部位の位置関係と形態的特徴に基づいた徒手的治療手技を選択することが有効であった.また,嚥下運動には舌骨上筋群が姿勢保持に働かず,嚥下運動に重点的に働くような姿勢選択が嚥下には有利に働いたと考えられる.治療効果の持続には,身体が適応できるような福祉用具の選択とポジショニングが必要であった.[結論]解剖・生理学的な特徴に応じ選択した治療を展開し,即時的な効果が得られた.しかし,効果を持続させるには即時的な治療効果のみにとらわれず,チームスタッフが嚥下運動のメカニズムを理解し,姿勢の運動学的解釈と環境適応という視点をもって,共通の方法で接することが必要であると考えられる.

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© 2003 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
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