日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
原著
口腔癌術後患者における摂食・嚥下機能の改善過程の検討
―舌切除、口腔底切除、下顎切除症例の比較―
難波 亜紀子山下 タ香里高橋 浩二道脇 幸博平野 薫石野 由美子
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2004 年 8 巻 2 号 p. 156-166

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抄録

口腔癌術後の摂食・嚥下障害に対して系統的に訓練を実施し,改善過程を詳細に検討した報告はほとんど見られない.そこでわれわれは,独自に考案した効率的な機能訓練法 (以下,摂食機能療法) に基づいて訓練した口腔癌術後症例の改善過程を切除範囲別に検討した.対象症例は昭和大学歯学部第一口腔外科学教室で手術を行った15症例 (舌部分切除4症例,舌半側切除2症例,舌亜全摘1症例,口腔底切除1症例,口腔底および下顎辺縁切除1症例,下顎区域切除4症例,下顎区域および頬粘膜切除1症例,下顎区域および中咽頭切除1症例) である.術後2~3週日に,「嚥下器官運動検査」を実施し,選択された訓練項目について週1回の頻度で摂食機能療法を実施した.訓練過程の評価は1か月毎に嚥下器官運動検査を用いて行った.症例によっては水飲みテスト,摂食・嚥下に関する自覚の聴取,嚥下造影も同時に実施した.その結果,訓練による改善過程には切除範囲により特徴がみられた.舌部分切除の運動障害は軽度であったが舌運動機能訓練を実施すると更に改善が得られた.舌半側切除では舌側方運動障害が長期間残存した.舌亜全摘では舌後方部挙上訓練が有効で,広範囲にみられた運動障害が半年以降に改善した.口腔底のみ切除の症例は1ヶ月という早期に改善したが,切除範囲が口腔底に加え下顎に及ぶと運動障害が長期間残存した.下顎区域切除では顎運動と頸部の可動性の障害が顕著であった.下顎区域切除および頬粘膜切除では術直後は口唇・頬運動の障害が顕著であったが最終的には舌挺出運動の障害が残存した.中咽頭および下顎区域切除では頬ふくらましの障害が特徴的にみられた.口腔癌術後患者の摂食・嚥下機能の改善過程は切除範囲により様々であるため,訓練内容を症例に応じて選択できる摂食機能療法が有用であると考えられた.

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© 2004 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
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