日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
研究報告
嚥下音の判別分析の試み
久保 高明湯ノ口 万友内藤 正美王 鋼下川 より子木村 隆
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2004 年 8 巻 2 号 p. 182-185

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抄録

【目的】:頸部聴診法は,非侵襲的で簡便な検査であり,客観的な評価法としての確立が期待されている.現在,頸部聴診による検出音は,音圧レベルや周波数,嚥下持続時間のパラメータによって誤嚥の有無を判定する場合が多いが,それらは単一のパラメータのみでの検討がほとんどであり,健常者でも嚥下音圧が低かったり,嚥下持続時間が延長したり,障害者ではその逆であったりなど,その検出音によって誤嚥か否かを判別することは困難となることも考えられる.そこで,今回の研究は,頸部聴診法による誤嚥の判別精度の向上を目的として,嚥下時産生音の3変量 (音圧レベル・嚥下持続時間・嚥下音産生回数) を用いてマハラノビスの距離による判別分析を試みた.

【対象と方法】:対象は健常成人5名および誤嚥ありと判断した嚥下障害患者12名である.5ml水を嚥下させ,その嚥下時産生音を頸部より検出した(サンプリング周波数は11KHz).検出音の音圧レベル・嚥下持続時間・嚥下音産生回数の3変量を用いて,その観測データから,健常者母集団と誤嚥者母集団へのマハラノビスの距離の2乗を求め,後者から前者を減じて値が負の場合を“誤嚥”,正の場合を“健常”と判別し,その判別的中率を確認した.そして,判別効率の推定値も算出した.さらに,交差妥当性についても検討した.

【結果】:嚥下障害患者の判別的中率は86%,健常者で72%,嚥下障害患者と健常者を含めた全体では75%であった.そして,判別効率の推定値は,嚥下持続時間の値が最も高く,次いで嚥下音産生回数,音圧レベルの順であった.さらに,交差妥当性の検討における判別的中率は約87%であった.

【考察】:多変量解析であるマハラノビスの距離を用いての誤嚥の判別は高率で可能であり,そして,今回用いた3変量の中では,嚥下持続時間がその判別に最も寄与することが示唆された.

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© 2004 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
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