日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
研究報告
咀嚼・嚥下が容易な食品に関する研究
― 高齢者調査における検討 ―
南 利子白石 浩荘米谷 俊石川 健太郎向井 美惠
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2005 年 9 巻 2 号 p. 221-227

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抄録

前報で,健康成人における官能評価・生体計測・物性測定の結果,一般的な食品 (以下,Bi) を低たんばくに調整し開発した「たんぱく調整食品」(以下,PBi) が,高齢者や障害者などの咀嚼・嚥下機能減退者にとって咀嚼・嚥下が容易な食品として利用できる可能性を示す報告を行った.そこで本研究は,咀嚼・嚥下機能が低下傾向にある高齢者にとってPBiが咀嚼・嚥下の容易な食品か否かを研究し,食品の物性と摂食機能との関係を考察することを目的とした.

被検食品には,BiとPBiのたんぱく含量の異なる2種類のクリームサンドビスケットを用い,比較した.調査は介護老人福祉施設に入所中の嚥下障害のない高齢者27名 (平均年齢83.0±7.5歳) と健康成人 (平均年齢32.6±4.8歳) を対象とした.観察評価では,BiとPBiを摂取時の①「顎の開閉回数」②「嚥下回数」③「咀嚼時間」④「摂食時間」を観察した.観察評価と同時に聞き取りによる官能評価を行い,評価項目毎に比較検討した.評価項目は,①「口中で溶けやすいのは?」②「嚥下時に飲みこみやすいのは?」③「口中でべたべたするのは?」④「嚥下後に口中に残りやすいのは?」⑤「全体として食べやすいのは?」⑥「おいしいのは?」の合計6問とした.高齢者は評価応答が明確な評価明確群17名とやや不安のある評価不安群10名に分けられ,高齢者の官能評価は評価明確群に対してのみ行った.調査実施前に口腔内所見(歯の状態,義歯の使用,Eichner分類,安定顎位が取れるか否か)の観察を実施した.

結果は,高齢者と健康成人の比較では,「顎の開閉回数」「咀嚼時間」「摂食時間」が高齢者で有意に増加したが,「嚥下回数」のみ,高齢者で低下傾向を示した.摂食状況の観察評価と聞き取りによる官能評価から,健康成人と同様に高齢者においてもBiに比べPBiが咀嚼・嚥下しやすいことが示唆された.また,高齢者の評価不安群において,対象者全員や健康成人の結果と同様に咀嚼時間以外の観察評価でPBiとBiの間に有意差があった.一方,評価明確群では,Biに比べてPBiが低値を示す傾向はあるものの有意な差はなかった.これは認知レベルと摂食準備期に関する興味深い結果であるといえるが,理由は未解明であり,今後の研究の必要性が示唆された.

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© 2005 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
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