2005 年 9 巻 2 号 p. 213-220
本研究は,一般的な食品 (以下,Bi) を低たんばくに調整し開発した「たんぱく調整食品」(以下,PBi) が,やわらかく,食べやすい食感であることに着目し,PBiが咀嚼・嚥下の容易な食品として利用可能か否かを検討することと,同時に咀嚼・嚥下機能の減退程度に応じた食品の物性を研究することを目的とした.
被検食品には,BiとPBiのたんぱく含量の異なる2種類のクリームサンドビスケットを用い,官能評価,物性測定,生体計測を行い,咀嚼・嚥下の適性を検証した.官能評価は,20代から40代の健康成人24名を対象に行った.物性測定は,唾液の浸漬を想定して,水浸漬0~60秒後にレオメータにより破断応力 (破断強度解析),凝集性・付着性 (テクスチャー解析) を測定した,生体計測は,20代から40代の健康成人8名を対象に,咀嚼時 (側頭筋・咬筋) と嚥下時 (舌骨上筋群) の筋電図を導出し,咀嚼・嚥下ともに,回数・時間・総筋活動量を測定し,実際の口中での動態を踏まえた観察を行った.
その結果,官能評価,物性測定と生体計測の結果の対応を確認することができた.即ち,PBiは,噛み始めのひと噛みはBiと同程度の噛み応えを持つが,口中に入ると,Biに比べ,①咀嚼が容易で,②歯や歯茎や粘膜に付着しにくく,③口溶けがよく,④嚥下が容易で,⑤食べた後に水が欲しくなりにくい,という特性を持つことが明らかになった.これらの結果より,PBiは,噛み始めの歯応えを残しつつ口中ではもたつきやばらつきがないなど,口中での処理が容易な食品として利用可能なことが明らかとなり,咀嚼・嚥下が容易な食品として利用可能なことが示唆された.このような「噛み応えは与えながらも口中では処理が容易」という物性は,高齢者や障害者などの咀嚼・嚥下機能減退者に適した食品を考える上で興味深い特徴であるといえる.また,本研究で用いた手法が咀嚼・嚥下機能減退者などに利用しやすい食品の研究における多面的評価手法として有効である可能性が示された.