日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
9 巻, 2 号
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
選択された号の論文の14件中1~14を表示しています
原著
  • ― 食塊形成・移送時の舌運動機能評価法 ―
    永長 周一郎, 向井 美惠
    2005 年9 巻2 号 p. 127-138
    発行日: 2005/08/31
    公開日: 2020/12/26
    ジャーナル フリー

    【目的】本研究の目的は,摂食・嚥下における食塊形成・移送時の舌圧を測定し,最大舌圧,舌口蓋接触時間,舌圧積分値,最大舌圧到達時聞等から,客観的で総合的な舌運動機能評価基準を開発することである.

    【対象と方法】対象は個性正常咬合を有する24~40歳の健康成人14名(男性8名,女性6名:平均年齢29.1歳)とした.各被検者に口蓋床を2床作製し,1床を測定前に日常使用し,他の1床は圧力センサを3個組み込み測定用とした.組み込み位置は①:口蓋正中部と両側第1大臼歯近心隣接面を結ぶ交点,②:①と③の2等分点,③:左側第1大臼歯口蓋側近心部とした.口蓋に舌を最大力下で押しつけた圧(押しつけ最大舌圧)を測定し,次に唾液(空嚥下),食品A:水5cc,食品B:増粘食品2.5g(水100ccに増粘剤を2g添加),食品C:増粘食品2.5g(水100ccに増粘剤を3g添加)を嚥下させ舌圧を測定した.「嚥下時最大舌圧」,「嚥下時舌口蓋接触時間」,「嚥下時舌圧積分値」,陽圧ピーク時までの到達時間の「最大舌圧到達時間」を解析した.

    【結果】舌圧形成で男女差が認められた.押しつけ最大舌圧は,嚥下時最大舌圧と比較して十分な圧力形成がされていた.最大舌圧は部位間の差は顕著でなく,食品粘度が増加しても増加傾向は認められなかった.舌口蓋接触時間は,舌中央部よりも舌側縁部で有意に延長した.食品粘度が増加すると,男性群の積分値が有意に増加し,男女両群とも舌口蓋接触時間,最大舌圧到達時間が有意に延長した.特に最大舌圧到達時間では全ての部位で有意差が認められた.

    【考察】食塊形成・移送のためには舌側縁の口蓋への押しつけが不可欠である.食塊形成・移送時の舌運動機能評価は,最大舌圧のみに拠るのではなく,舌口蓋接触時間,舌圧積分値,最大舌圧到達時間を総合的に評価していく必要がある.最大舌圧到達時間は食品粘度を反映するパラメータとして重要である.

  • ― 検者内および検者間における検討 ―
    戸原 玄, 千葉 由美, 中根 綾子, 後藤 志乃, 大内 ゆかり, 寺中 智, 大庭 優香, 森田 定雄, 山脇 正永, 中島 純子, 植 ...
    2005 年9 巻2 号 p. 139-147
    発行日: 2005/08/31
    公開日: 2020/12/26
    ジャーナル フリー

    目的:摂食・嚥下障害の評価法のうちVideofluorography(以後VF)は最も優れているとされる.しかしVFの評価は主観に依存する部分が多く,その再現性を確立する必要がある.そこで本研究では検者間および検者内での一致率に関する信頼性の検証を試みた.対象・方法:歯科医師5名,言語聴覚士1名,看護師1名に,摂食・嚥下障害の典型的な症状である口腔期障害例,咽頭残留例,喉頭内侵入例,嚥下前誤嚥例,嚥下中誤嚥例,嚥下後誤嚥例の6症例のVF側面像を合計4回評価させた.評価には我々の作成したVF評価用紙および評価基準を用いた.一致率はCohen's Kappa統計量にて分析した.結果:検者間の全項目の一致率の平均は,0.24-0.34と低かった.誤嚥量,Penetration-Aspiration Scaleなど誤嚥に関連する項目は,高度の一致率が得られたが,それ以外の項目の一致率は全般的に低かった.また,評価の回数を重ねても一致率は改善しなかった.検者内の全項目の一致率の平均は0.53-0.67と中等度から高度であった.また項目別でも全般に高い一致率を呈した.考察:ある程度の知識と経験をもった検者であれば誤嚥の判定に大きな差はなかった.しかしVFは患者の状態により検査の進め方を変える必要があり,同一症例でも検査の進め方次第で誤嚥の発生率が異なる.従って評価のトレーニングを行う一方,十分な知識と経験をもつ専門家とともに検査することが評価の信頼性を高めると考えられた.また,口腔や咽頭などの動きに対する検者間一致率のばらつきは訓練の適応決定に影響するため,検査後のカンファレンスを行って方針を決定するなど,評価体制の整備が重要であると考えられた.

  • ― 言語聴覚士に対するアンケート調査 ―
    岡田 澄子, 才藤 栄一, 飯泉 智子, 重田 律子, 九里 葉子, 馬場 尊, 松尾 浩一郎, 横山 通夫, Jeffrey B PALM ...
    2005 年9 巻2 号 p. 148-158
    発行日: 2005/08/31
    公開日: 2020/12/26
    ジャーナル フリー

    嚥下肢位として広く使用されているChin downを機能解剖学的肢位と関連づけることを目的に,摂食・嚥下障害を扱っている日本の言語聴覚士34名を対象に郵送と電子メールでアンケート調査した.回収率は88% (30名).1)Chin downの日本語名称は「顎引き」57%,「頚部前屈位」20%など様々で5通りの呼称があった.回答者の臨床経験年数,取り扱い患者数による傾向の違いはなかった.2)Chin downとして5つの頭頚部の機能解剖学的肢位像からの選択では,頭屈位53%,頚屈位30%,複合屈曲位17%の3肢位像が選択された.3)5つの頭頚部肢位像の呼称としては,肢位像おのおのが複数の名称で呼ばれ,逆に同じ呼称が複数の肢位像に対して重複して用いられ,1対1に対応させることが困難であった.4)Chin downに比べChin tuckという名称は知られていなかった.5)回答者のコメントとして「名称や肢位の違いは意識していなかった」などの感想があった.これらの結果は,Chin down肢位が機能解剖学的肢位としては極めて不明瞭に認識され,かつ,多数の異なった解釈が存在していることを意味した.Chin downをめぐっては,実際,その効果についていくつかの矛盾した結果が争点となっている.以上のアンケート結果は,その背景として様々な呼称と種々の定義が存在し,多くの混乱が存在する現状をよく反映していた.混乱の原因として,1)肢位が専ら俗称による呼称を用いて論じられ,また,具体的操作として定義されてきた,2)頭頚部肢位の運動が主に頭部と頚部の2通りの運動で構成されているという概念が欠如していた,3)訳語を選択する際に多様な解釈が介在した,などが重要と考えられた.今後,Chin downを機能解剖学的に明確に定義したうえで,その効果を明らかにしていく重要性が結論された.

  • 徳田 佳生, 木佐 俊郎, 永田 智子, 原 順子
    2005 年9 巻2 号 p. 159-165
    発行日: 2005/08/31
    公開日: 2020/12/26
    ジャーナル フリー

    【目的】窒息例,誤嚥性肺炎例および嚥下障害徴候例の背景因子,摂食・嚥下能力および転帰としての栄養摂取方法を比較し,臨床的特長を検討した.

    【対象と方法】平成12年1月~16年4月にリハ科へ摂食・嚥下評価依頼のあった患者のうち,急性中枢神経系器質疾患に伴う嚥下障害例を除いた55例を対象とし,明らかな窒息または誤嚥のエピソードに引き続く急性呼吸不全で救急入院した窒息群 (13例),窒息または大量誤嚥のエピソードなしに急性呼吸不全で入院となり誤嚥性肺炎と診断された肺炎群 (27例),嚥下障害徴候に対する摂食・嚥下評価依頼の徴候群 (15例) の3群に分け,後方視的に比較検討した.

    【結果】平均年齢は78才で3群間に差はなかったが,男性が肺炎群と徴候群でそれぞれ89%,93%と高率であった.痴呆症状を有する割合は窒息群69%,肺炎群41%,徴候群40%であった.咽頭絞扼反射消失は窒息群62%,肺炎群67%に対し,徴候群では33%と有意に低率であった.ビデオ嚥下造影施行46例において何らかの誤嚥所見を呈した割合は,窒息群44%,肺炎群84%,徴候群67%と,肺炎群で高い傾向にあり,誤嚥または喉頭侵入時の咳嗽反射が明らかであった割合は,窒息群17%,肺炎群18%に対し徴候群では89%と有意に高く,徴候群には「むせのない誤嚥」がみられなかった.三食経口摂取を獲得した割合は,窒息群46%,肺炎群26%に対し,徴候群60%であった.窒息群と肺炎群において,悪化前に嚥下障害徴候を呈していたものが68%を占めていた.

    【考察】窒息または誤嚥性肺炎による急性呼吸不全で救急入院した患者に比較して,嚥下障害徴候段階の患者では気道防御機構としての咳嗽反射・咽頭絞扼反射が保たれていると推察でき,この段階での的確な評価と対応が経口摂取を安全により長く継続するために重要と思われる.

  • 由良 晋也, 吉水 智晴, 萩原 有希, 江守 小夜子, 森 美智子, 大賀 則孝, 大井 一浩, 影近 謙治
    2005 年9 巻2 号 p. 166-171
    発行日: 2005/08/31
    公開日: 2020/12/26
    ジャーナル フリー

    良好な口腔ケアの効果を得るには,その効果に影響する因子を把握する必要がある.本研究の目的は,口腔ケア後の口腔清掃度と舌苔量,口臭に影響する因子を明らかにすることである.

    対象は,特別養護老人ホーム入所者のうち,3か月以上の口腔ケアが行われた68名で,生活自立度や口腔清掃自立度に応じた口腔ケアが行われた.性別は男16名,女52名で,年齢は60~102歳 (平均85歳) であった.口腔清掃度,舌苔量,口臭 (各4段階評価:1-4点) を従属変数,性別 (1項目),年齢 (1項目),生活自立度 (2項目),口腔清掃の自立度 (3項目),口腔ケアの状況 (2項目),口腔内の状況 (6項目) の計15項目を独立変数として,重回帰分析を用いて口腔ケア後の口腔内状態に影響する因子について解析した.

    口腔清掃度の平均点数は1.8,舌苔量は1.4,口臭は1.1で,口腔内状態は概ね良好であった.重回帰分析の結果では,口腔清掃度には口腔清掃回数 (p=0.001,標準偏回帰係数β=0.363) と義歯使用 (p=0.040,β=-0.277),舌苔量には唾液湿潤度 (p=0.004,β=0.331) と性別 (p=0.007,β=-0.306),口臭には口腔清掃回数 (p=0.003,β=0.352) が影響していた.

    良好な口腔ケアの効果を得るには,口腔清掃の回数を増やすこと,義歯をできるだけ外すこと,口腔内を湿潤させることが有効と考えられた.

  • 綾部 園子, 村井 七江, 櫻井 淳司
    2005 年9 巻2 号 p. 172-179
    発行日: 2005/08/31
    公開日: 2020/12/26
    ジャーナル フリー

    介護食に適した食品の物性と嗜好性を明らかにする目的で,高齢者を対象として官能検査を行い,身体状況,物性との関係を検討した.

    対象者は,社会福祉施設に入居している65歳以上の高齢者139名(男性25名,女性114名,平均年齢83歳)および同施設の職員34名(男性14名,女性20名,平均年齢42歳)である.粘度の異なる3種のすり下ろし状りんごを調製した.試料Aは増粘剤無添加試料で,試料BはAに市販増粘剤を添加したもの,試料CはAにりんごジュースと市販増粘剤添加試料を添加したものとした.高齢者を対象に順位法による官能検査を行った.同時に嚥下機能の評価として発声テスト・RSST・MWSTなどを行い,要介護度・ADL・歯の状況について質問した.試料の物性はB型回転粘度計およびテクスチャーアナライザーで測定した.

    その結果,試料のみかけの粘度はB>A>Cで,ジュースに増粘剤を添加したC試料は最も小さかった.テクスチャー特性の応力および付着エネルギーは,B>A>Cであった.圧縮速度を変化させ,応力と付着エネルギーの関係を見ると,応力と付着エネルギー間に高い正の相関が認められた.官能検査の結果,3試料中で最もやわらかく粘度が小さい試料Cが,もっとも飲み込みやすいと評価された.構音テストと水のみテストと食事介助を指標に嚥下障害群と健常者群を抽出し,飲み込みやすさと嗜好性について検討した結果,健常者の場合は必ずしも「総合的な好ましさ」と飲み込みやすさは一致しなかった.一方,障害群では飲み込みやすい試料Cをもっとも好ましいと評価し,嚥下力により好まれる食品の物性が異なることが明らかになった.

  • 田子 歩, 佐藤 典子, 辻 真由美, 荒井 洋
    2005 年9 巻2 号 p. 180-185
    発行日: 2005/08/31
    公開日: 2020/12/26
    ジャーナル フリー

    長期間の絶食を経験した後,機能的には食物の嚥下が可能であるにもかかわらず,長期にわたって摂食を拒否する小児がいる.離乳食の開始には最適期があるという説があり,食物受容の最適期以前に摂食を経験できないことが,その主な原因の一つとして考えられてきた.我々は,その成因と病態をより明らかにするため,長期絶食期間の後,摂食拒否に陥った9例の病歴,臨床所見および治療への反応性を調査した。9例中6例は新生児期から完全に経口摂取を禁止されていた.この6例を対象として,同様に新生児期から長期絶食を経験しながらも離乳食~普通食の完全経口摂取が獲得できた19例の対照群と比較検討した.その結果,摂食拒否群では在胎期間が有意に長かったものの,経口摂取許可修正月齢,絶食期間,絶食中の口腔アプローチの有無に対照群との間で有意差はなかった.一方,消化器・呼吸器合併症および感覚過敏の合併が有意に多かった.この結果は,摂食に関する最適期の存在よりむしろ,消化器,呼吸器合併症およびその治療過程による口腔・咽頭への侵害刺激の蓄積や,発達障害に伴う感覚過敏が摂食拒否の成り立ちにより深く関与していることを示している.個々の症例の臨床的検討からは,絶食中の口腔アプローチの有無は予後に影響する可能性が示唆され,手掌等の脱感作,時間をかけた食物の増量や味覚の幅の拡大,病態把握の援助や療育施設との連携を通じた母親の心理的負担の軽減が症状の改善を促した.摂食拒否の遷延化には母子間の心理的葛藤も関与していたと考えられる.

臨床報告
  • ― 直接訓練における試用 ―
    横山 通夫, 岡田 澄子, 馬場 尊, 才藤 栄一, 重田 律子, 鈴木 美保, 九里 葉子, 小国 喜久子, 宮下 警一, 戎 五郎, 久 ...
    2005 年9 巻2 号 p. 186-194
    発行日: 2005/08/31
    公開日: 2020/12/26
    ジャーナル フリー

    本研究は,新たに開発した嚥下障害者用ゼリーの嚥下障害食,訓練食としての適性を検討する目的で実施した.

    当院で嚥下造影を行った摂食・嚥下障害患者に日を改めて嚥下内視鏡検査を2回実施し,本ゼリー嚥下時の咽頭を観察し,安全性を評価した.更に,嚥下内視鏡検査の期間内に,本ゼリーを用いて計5回の嚥下直接訓練を実施し,嚥下状態,操作性及び安全性を評価した.また,本ゼリーの嗜好性を対象患者より聴取した.

    対象症例は25例で,平均年齢は69.6歳であった.摂食・嚥下障害の臨床的病態重症度分類の内訳は,「食物誤嚥」4例,「水分誤嚥」10例,「機会誤嚥」8例及び「口腔問題」3例であった.訓練中止症例を3例認めたが,本ゼリーの性能の問題による中止症例はなかった.嚥下内視鏡所見では,咽頭残留あるいは喉頭内侵入を認めた症例が存在したが,誤嚥は1例も観察されなかった.直接訓練時にむせ,湿性嗅声を認めた頻度は,それぞれ2.5%及び21.9%であった.また,口腔内停留時間の長さでむせ,湿性頓声の頻度に違いはなく,融解による誤嚥の危険性が低いことを確認した.更に,操作性,食べやすさ,嗜好性においても高い評価を得た.

    これらの結果より,本ゼリーは,嚥下障害食及び摂食・嚥下障害者用の直接訓練食として,有用な食品であると考えられた.

研究報告
  • 加賀谷 斉, 馬場 尊, 才藤 栄一, 横山 通夫, 尾関 保則, 三串 伸哉, 岡田 澄子, 村岡 慶裕, 肥田 岳彦
    2005 年9 巻2 号 p. 195-198
    発行日: 2005/08/31
    公開日: 2020/12/26
    ジャーナル フリー

    嚥下障害の中で喉頭挙上が不十分な咽頭期嚥下障害に対して機能的電気刺激による喉頭挙上再建が提唱され始めているが,舌骨上筋群のモーターポイントについて詳述した報告はみられない.われわれはオトガイ舌骨筋,顎二腹筋前腹,顎舌骨筋のモーターポイントの検索を解剖学的に行った.藤田保健衛生大学2004年度解剖学実習遺体4体の舌骨上筋群への神経筋枝が筋膜を貫通する部位と筋枝長を測定した.オトガイ舌骨筋枝が筋膜を貫通する部位は舌骨上縁から平均2.1cm頭側,正中から平均0.8cm外側であり,筋枝長は平均2.8cmであった.顎二腹筋前腹筋枝は舌骨上縁から平均2.3cm頭側,正中から平均2.2cm外側で筋膜を貫通し,筋枝長は平均2.7cmであった.顎舌骨筋枝は顎二腹筋前腹と同じ部位で筋膜を貫通し,筋枝長は平均2.2cmであった.機能的電気刺激に用いる埋め込み電極には筋内電極,筋膜上電極,神経周囲電極,神経内電極の4種類があるが,現時点では電極としては筋内電極が第一選択と思われた.

  • 高橋 福佐代, 松下 文彦, 平岡 有香, 福與 悦子
    2005 年9 巻2 号 p. 199-205
    発行日: 2005/08/31
    公開日: 2020/12/26
    ジャーナル フリー

    【目的】:脳疾患などで急性期に摂食・嚥下障害を併発した患者などに行われる経鼻経管栄養法は,容易に必要な栄養分を摂取できるなどといった利点もあるが,長期のチューブ挿入によってチューブの外壁が汚染され,不顕性誤嚥を起こす患者にとっては誤嚥性肺炎の一要因になりうる.今回われわれは,経鼻経管栄養チューブ交換後のチューブ外壁汚染の程度を細菌学的に検討し,同時に舌苔・咽頭細菌叢との比較・検討を行った.

    【対象と方法】:当院脳外科に長期入院中で嚥下障害により経鼻経管栄養チューブ(以下NG-tubeとする)を挿入しており,歯科衛生士による専門的口腔ケアを週5日,日勤帯で行っている患者5名.①旧NG-tube抜去後舌苔及び咽頭壁の細菌培養検査②NG-tube交換から6時間後・3日後・7日後・14日後のNG-tube表面の拭い取りによる細菌培養検査

    【結果】:6時間後のNG-tube外壁表面からはすでに多くの菌が検出され,その多くが旧NG-tube抜去後の咽頭壁と極めて類似していた.3日後以降では主としてGram陰性桿菌を中心に6時間後とは別の新たな菌種が検出され,tube表面での菌定着を疑わせる結果が得られた.また時間の経過に伴い,tube表面に定着する菌は種類・量とも増加傾向にあった.比較的意識レベルが良く,口腔ケアにも協力的な患者2名は口腔ケアにより舌苔の菌は比較的良好に抑えられているにも関わらず,NG-tubeでは経時的な菌の増加が認められた.

    【考察】:NG-tubeの長期留置は,細菌学的な結果から良好であるとは考えにくいことがいえた.また,NG-tube感染症の治療がtubeを抜去(交換)することでしかないため一定期間の交換が必要であり,しかもその期間はより短期であることが望ましいと考えられた.

  • ― Manofluorographyによる解析の試み ―
    中島 純子, 唐帆 健浩, 安藤 俊史, 佐藤 泰則
    2005 年9 巻2 号 p. 206-212
    発行日: 2005/08/31
    公開日: 2020/12/26
    ジャーナル フリー

    舌癌切除後には実質欠損部の縫縮や皮弁による再建によって,食塊形成や保持,移送の障害が生じ,摂食・嚥下障害が後遺する症例が少なくない.このような症例に対して,口腔内に生じた死腔の減少を目的に舌接触補助床Palatal Augmentation Prosthesis(PAP)を装着し,咀嚼,嚥下,発音機能の改善を試みることがある.しかしPAP装着による嚥下機能の変化を客観的に評価した報告は多くはなく,さらに咽頭領域の嚥下圧の変化についての報告はない.

    本研究では,舌部分切除を施行した症例に適応したPAPが嚥下機能に与える影響を,VF画像と嚥下圧波形を同期させるManofluorography(MFG)を用いて定量的に解析し検討した.

    対象は左舌腫瘍T3N1M0の診断のもと,可動部舌半側切除術,左上頸部郭清術を施行した症例である.舌の可動域に制限があり,VF検査で口腔相において食塊の送り込みに障害を認めた.そのため舌と口蓋との接触関係の改善,咬合改善を目的としたPAPの製作を行った.MFGは,舌根部,下咽頭部,食道入口部にセンサーを有するカテーテルチップ型圧力トランスデューサーを使用し,PAP装着,非装着下で施行した.解析項目は舌根部,下前頭部の最大嚥下圧値,舌根―咽頭後壁の接触時間,咽頭通過時間とした.

    その結果,PAP装着により下咽頭部の圧は有意に低下し,舌根と咽頭後壁の接触時間は軽度延長,咽頭通過時間は有意に短縮した.

    下咽頭部で得られる陽性波は,食塊が下品頭部を通過した後に出現する下咽頭の収縮を反映しており食塊後端を駆出すると考えられている.舌による食塊の送り込みに障害がある状態では,咽頭後壁の収縮力の充進により,代償的な嚥下を行っていたと考えられるが,PAP装着により咽頭後壁の収縮は緩和され下咽頭圧の低下が認められたと考えられる.これは,PAP装着により「楽に飲めるようになった」という主観的評価を裏付けていると考えられる.

  • ― 官能評価,物性測定,生体計測による検討 ―
    南 利子, 中村 弘康, 福田 真一, 松田 賢一, 向井 美惠, 米谷 俊
    2005 年9 巻2 号 p. 213-220
    発行日: 2005/08/31
    公開日: 2020/12/26
    ジャーナル フリー

    本研究は,一般的な食品 (以下,Bi) を低たんばくに調整し開発した「たんぱく調整食品」(以下,PBi) が,やわらかく,食べやすい食感であることに着目し,PBiが咀嚼・嚥下の容易な食品として利用可能か否かを検討することと,同時に咀嚼・嚥下機能の減退程度に応じた食品の物性を研究することを目的とした.

    被検食品には,BiとPBiのたんぱく含量の異なる2種類のクリームサンドビスケットを用い,官能評価,物性測定,生体計測を行い,咀嚼・嚥下の適性を検証した.官能評価は,20代から40代の健康成人24名を対象に行った.物性測定は,唾液の浸漬を想定して,水浸漬0~60秒後にレオメータにより破断応力 (破断強度解析),凝集性・付着性 (テクスチャー解析) を測定した,生体計測は,20代から40代の健康成人8名を対象に,咀嚼時 (側頭筋・咬筋) と嚥下時 (舌骨上筋群) の筋電図を導出し,咀嚼・嚥下ともに,回数・時間・総筋活動量を測定し,実際の口中での動態を踏まえた観察を行った.

    その結果,官能評価,物性測定と生体計測の結果の対応を確認することができた.即ち,PBiは,噛み始めのひと噛みはBiと同程度の噛み応えを持つが,口中に入ると,Biに比べ,①咀嚼が容易で,②歯や歯茎や粘膜に付着しにくく,③口溶けがよく,④嚥下が容易で,⑤食べた後に水が欲しくなりにくい,という特性を持つことが明らかになった.これらの結果より,PBiは,噛み始めの歯応えを残しつつ口中ではもたつきやばらつきがないなど,口中での処理が容易な食品として利用可能なことが明らかとなり,咀嚼・嚥下が容易な食品として利用可能なことが示唆された.このような「噛み応えは与えながらも口中では処理が容易」という物性は,高齢者や障害者などの咀嚼・嚥下機能減退者に適した食品を考える上で興味深い特徴であるといえる.また,本研究で用いた手法が咀嚼・嚥下機能減退者などに利用しやすい食品の研究における多面的評価手法として有効である可能性が示された.

  • ― 高齢者調査における検討 ―
    南 利子, 白石 浩荘, 米谷 俊, 石川 健太郎, 向井 美惠
    2005 年9 巻2 号 p. 221-227
    発行日: 2005/08/31
    公開日: 2020/12/26
    ジャーナル フリー

    前報で,健康成人における官能評価・生体計測・物性測定の結果,一般的な食品 (以下,Bi) を低たんばくに調整し開発した「たんぱく調整食品」(以下,PBi) が,高齢者や障害者などの咀嚼・嚥下機能減退者にとって咀嚼・嚥下が容易な食品として利用できる可能性を示す報告を行った.そこで本研究は,咀嚼・嚥下機能が低下傾向にある高齢者にとってPBiが咀嚼・嚥下の容易な食品か否かを研究し,食品の物性と摂食機能との関係を考察することを目的とした.

    被検食品には,BiとPBiのたんぱく含量の異なる2種類のクリームサンドビスケットを用い,比較した.調査は介護老人福祉施設に入所中の嚥下障害のない高齢者27名 (平均年齢83.0±7.5歳) と健康成人 (平均年齢32.6±4.8歳) を対象とした.観察評価では,BiとPBiを摂取時の①「顎の開閉回数」②「嚥下回数」③「咀嚼時間」④「摂食時間」を観察した.観察評価と同時に聞き取りによる官能評価を行い,評価項目毎に比較検討した.評価項目は,①「口中で溶けやすいのは?」②「嚥下時に飲みこみやすいのは?」③「口中でべたべたするのは?」④「嚥下後に口中に残りやすいのは?」⑤「全体として食べやすいのは?」⑥「おいしいのは?」の合計6問とした.高齢者は評価応答が明確な評価明確群17名とやや不安のある評価不安群10名に分けられ,高齢者の官能評価は評価明確群に対してのみ行った.調査実施前に口腔内所見(歯の状態,義歯の使用,Eichner分類,安定顎位が取れるか否か)の観察を実施した.

    結果は,高齢者と健康成人の比較では,「顎の開閉回数」「咀嚼時間」「摂食時間」が高齢者で有意に増加したが,「嚥下回数」のみ,高齢者で低下傾向を示した.摂食状況の観察評価と聞き取りによる官能評価から,健康成人と同様に高齢者においてもBiに比べPBiが咀嚼・嚥下しやすいことが示唆された.また,高齢者の評価不安群において,対象者全員や健康成人の結果と同様に咀嚼時間以外の観察評価でPBiとBiの間に有意差があった.一方,評価明確群では,Biに比べてPBiが低値を示す傾向はあるものの有意な差はなかった.これは認知レベルと摂食準備期に関する興味深い結果であるといえるが,理由は未解明であり,今後の研究の必要性が示唆された.

  • ― 舌癌術後の開口運動 ―
    小山 祐司, 石田 暉, 酒泉 和夫, 鷹嘴 裕, 小野木 英美, 豊倉 穣
    2005 年9 巻2 号 p. 228-233
    発行日: 2005/08/31
    公開日: 2020/12/26
    ジャーナル フリー

    【目的】開口運動の評価法としてDaniels and Worthingham's muscle testing(DMT)の「Jaw Opening」は臨床上簡便である.しかしながらDMTの評価は主観的であり,FとWFの区別は難しい.これに対して我々は簡便かつ客観的に開口運動を評価するために,DMTにおける徒手的な抵抗動作を頸椎介達牽引器におこなわせ,閉口方向への抵抗に対して最大開口位を保持する力(最大開口力)の定量化に有用であることを健常成人で確認した.

    口腔癌の手術例において,開口筋が切除されることも少なくないが,術前・術後の最大開口力を定量的に評価した報告はない.今回,我々は舌癌術前・術後に頸椎介達牽引器を用いた開口力測定法の臨床応用を試みた.

    【対象と方法】対象は舌癌根治治療目的に入院した6名 (平均62歳).術式は舌可動部半側切除と舌骨上筋群の一側切除術 (4名),舌可動部亜全摘出と舌骨上筋群の広範切除術 (2名) である.評価は術前1回,術後1回の計2回とした.〈最大開口力測定〉被検者を座らせ,頭頸部は中立位とした.検者は被検者の頭部が動かないよう片手で抑え,被検者に最大開口位を保持させた.頸椎介達牽引器の頭囲ベルトを被検者の下顎のみにかけ,体幹軸に対してほぼ垂直方向に牽引して最大値(kg)を確認した.〈最大開口量測定〉被験者に最大開口させ,ノギスで上下顎前歯間の直線距離(㎜)を測定した.

    【結果および考察】最大開口力平均値(平均±標準誤差)は術前18.7±2.0kg,術後16.7±1.3kgで有意な低下はなかった.最大開口量平均値(平均±標準誤差)は術前49.5±2.4mm,術後34.8±2.8mmと有意な低下を認めた.すなわち舌骨上筋群が切除され,舌骨下筋群が温存された舌癌術後の開口運動は,術前と比較して最大開口量の低下があっても最大開口力は保たれていた.最大開口力に関しては,舌骨上筋群よりも舌骨下筋群が重要である可能性が示唆された.

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