この研究は、被災地において住民が地域の誇りとしている自然や風景、文化、行事などの「地域のシンボル」を生かす復興に前向きな手がかりを与えようとするものである。東京電力福島第一原子力発電所の事故によって全町民が避難した福島県双葉郡富岡町では2017年春に「帰還宣言」を出す準備が進められているが、県内外に離散している住民がどれだけ町に戻れるか見えていない。放射線の「リスク」「安全」だけの判断でなく、住民が町を離れていても前向きに歩むための心の拠り所も必要だと推測される。富岡町が「ふるさとのシンボル」としているのが「夜の森(よのもり)の桜」である。それを生かして住民たちをつなぐことができるか。「景観と安全」の両立を図って成果をおさめた長崎の眼鏡橋保存や兵庫県城崎温泉の復興事例と比較、それらの教訓を基に、地域のシンボルを生かして世代を超えて長期に進める復興の考え方を提案する。