抄録
2011年3月に福島第一原発で発生した事態とその影響を受けた地域の「今後のあり方」について、日本では「災害被災地」の「復興」という文脈で論じられてきた。1986年4月にチェルノブイリ原発4号炉で起きた爆発とその影響を受けた人々の状態について、被害を受けた国々では「カタストロフィ」と「押し付けられたリスクに対する補償」の文脈で語られており、チェルノブイリ被害地域に「復興」という語彙はない。核施設で起きた爆発と放射性物質の拡散という面では類似する事態でありながら、日本とチェルノブイリ原発被害国では事態の語り方、論じ方(ナラティブ)が明確に異なる。チェルノブイリ原発被害地域における「被害補償・リスク補償」のナラティブと比較することにより、原子力発電所で生じた危機的な事態を「災害復興」の文脈で語ることが、日本に特有の文化的現象であることが浮かび上がる。