日本透析医学会雑誌
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原著
血液透析の修正可能な治療指標に起因する日本の透析患者の推定生存年数
-DOPPSより-
斎藤 明秋葉 隆秋澤 忠男福原 俊一浅野 泰黒川 清Jennifer L Bragg-GreshamMargaret A EichleayRonald L PisoniFriedrich K Port
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2008 年 41 巻 8 号 p. 473-482

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抄録

血液透析療法のうち修正可能な6つの治療分野(指標)において,推奨レベル(目標値)を達成していない患者割合を算定するために,DOPPS(Dialysis Outcomes and Practice Patterns Study:血液透析の治療方法と患者の予後についての調査)から得られた日本人血液透析患者の代表サンプルを用いた.死亡の相対リスクの推定にはコックス生存モデルを患者背景で補正して使用し,6つのそれぞれの治療分野(指標)に起因する患者生存年数を推定した.また,推定生存延長年数(患者年)を計算するために,現行の日本人血液透析患者人口の実際の死亡率に基づいた過去5年間の生存曲線を,全ての患者が6つの治療指標(ガイドライン)推奨レベルを達成したと仮定した場合に予測される5年間の生存曲線と比較した(日本透析医学会ガイドラインと米国腎財団KDOQIガイドラインの双方に基づき比較・計算した).日本における6種の治療目標値を達成していない患者割合とそのことに起因する死亡の相対リスクを全ての生存年数(患者年)推定のベースとした.その結果,日本人の血液透析患者の内,ごく少数の患者では5つないし6つの指標で目標値を達成していたが,殆どの患者(78.1%)で達成した指標は2つないし4つであり,20.5%の患者では1つ以下と,かなりの割合の患者が治療指標の推奨レベル(目標値)を達成していなかった.一方,生存年数の延長に最も良い効果をもたらしたのは,2つの治療指標であり,血清アルブミン4.0g/dL以上の患者の割合を増やすこと(全ての患者が目標値を達成した際には43,525患者年,3.1%増加)とヘモグロビン値11g/dL以上の患者の割合を増やすこと(全ての患者が目標値を達成した際には24,878患者年,1.8%増加)であった.また,生存年数の合計延長年数(72,958患者年)は,6つの治療指標から独立モデルで別々に算出された患者生存年数の単純合計(99,815患者年)より27%低いものであった.日本において,ヘモグロビン値がもたらす効果はどの目標値が適用されたかで異なり,もし11g/dLの代わりにヘモグロビン目標値≥10g/dLが使われた場合,前述の患者生存延長年数は16,580(患者年)となる.日本においては,今後,前向きの無作為比較試験を実施して,ガイドラインの更新を検討すべきと考えられた.

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© 2008 一般社団法人 日本透析医学会
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