2008 年 41 巻 9 号 p. 641-645
症例は66歳の男性.1974年に慢性糸球体腎炎を原疾患とする慢性腎不全に対し,血液透析療法を開始した.1980年に献腎移植を受けるも,1年半後に移植腎動脈血栓症のため移植腎機能は廃絶に至った.この血栓症の発症を契機に先天性アンチトロンビンIII(AT III)欠乏症と診断された.今回,自己腎発生の腎癌に対し,2007年1月に腹腔鏡下腎摘除術を施行した.周術期には,AT III活性を100%以上に維持するようにAT III製剤を適宜投与した.合併症は手術終了直前に投与したヘパリンによる後出血のみで,周術期に血栓症は認められなかった.維持透析患者にはさまざまな合併症のみられることも多く,周術期にはそれぞれに適切に対処する必要がある.自験例のようにAT III欠乏症を合併する場合には,一般患者と同様,AT III製剤の適切な補充が血栓症予防策と考えられる.