日本透析医学会雑誌
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症例報告
偽性肺塞栓症によると思われた呼吸器症状が診断の契機となったヘパリン起因性血小板減少症の1例
小藤田 篤加藤 真紀秋元 哲高橋 秀明伊藤 千春武田 真一安藤 康宏武藤 重明湯村 和子草野 英二
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2009 年 42 巻 8 号 p. 587-593

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抄録
ヘパリン起因性血小板減少症(heparin-induced thrombocytopenia;HIT)は近年本邦でも広く認知されるようになってきた.今回われわれは,シャント造設中のヘパリン投与後より出現した呼吸器症状がHIT診断の契機となった1透析症例を経験した.症例は81歳,女性.真性多血症の既往があり,糖尿病性腎症による慢性腎不全の進行のため,平成19年12月28日カテーテル挿入下に透析導入となった.9日後の内シャント造設術中のヘパリン静注直後より肺血栓塞栓症を思わせる胸痛,頻呼吸,低酸素血症が出現し,翌日には透析導入時に52.8×104/μLであった血小板数が3.2×104/μLまで著減した.画像上右内頸静脈カテーテル周囲の血栓および腎梗塞像を認めたが,肺血栓塞栓症の所見は確認されなかった.抗platelet factor 4(PF4)-ヘパリン抗体が陽性であることが判明し,ヘパリンを中止しargatrobanによる治療を開始したところ,持続していた呼吸器症状は消失し,血小板数も安定した.本症例におけるHITの診断の契機になった呼吸器症状は,各種画像検査にて肺血栓塞栓症と診断しえない病態として知られる偽性肺塞栓症によるものと判断した.従って,シャント造設時のヘパリン投与により肺血栓塞栓症を思わせる胸部症状が急速に出現した場合は,HITの可能性を念頭に置き精査を進める必要があると思われた.また,真性多血症の存在が本症例のHITの臨床経過に及ぼした影響は不明であるものの両者の合併は決して例外ではなく,真性多血症を伴った血液透析導入症例に遭遇した場合には,HITを含めた血栓症の発現の可能性を念頭に置きながら加療にあたることも重要であると考えられた.
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© 2009 一般社団法人 日本透析医学会
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