抄録
【目的】生体腎移植レシピエントを対象とし,HCV抗体陰性患者とHCV抗体陽性患者での腎生着率と生存率を検討する.【方法】1990年1月から2009年12月に東京女子医科大学泌尿器科で生体腎移植を施行した全患者964名[HCV抗体陰性914名(男性583名,女性331名),HCV抗体陽性50名(男性34名,女性16名)],HCV抗体陰性患者とHCV抗体陽性患者の2群に分け,2群間での腎生着率および生存率を比較した.【結果】2群間での移植腎生着率を比較すると,HCV抗体陰性群(%)vs. HCV抗体陽性群(%)で,36か月後93.6 vs. 83.5,60か月後88.4 vs. 71.8,120か月後75.6 vs. 51.3とHCV抗体陽性群の生着率は経年的に有意に低下した(Log-rank test p<0.001).2群間での生存率を比較すると,HCV抗体陰性群(%)vs. HCV抗体陽性群(%)で,36か月後98.3 vs. 94.0,60か月後97.3 vs. 89.3,120か月後93.7 vs. 81.3とHCV抗体陽性群の生存率は経年的に有意に低下した(Log-rank test p<0.001).【考察】生体腎移植患者のみを対象とし,HCV抗体陰性患者とHCV抗体陽性患者の腎生着率および生存率を比較した,初めての大規模な観察研究である.HCV抗体陰性患者と比較しHCV抗体陽性患者では,腎生着率が低下し生存率も低下することが明らかとなった.腎生着率が低下する原因とし,HCV抗体陽性群ではchronic rejectionや移植後腎炎の割合が高いこと,PTDMの発症率が高率であったことがあげられる.本研究の限界とし,肝不全による死亡を調査対象としておらず,肝不全死が生命予後に影響したかどうか不明である.【結語】HCV抗体陰性患者と比較しHCV抗体陽性患者では,腎生着率が低下し生存率も低下する.