日本透析医学会雑誌
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症例報告
左腕頭静脈に対する経皮的血管拡張術の直後に喀血を起こした1症例
池田 正博富田 祐介尊田 和徳尾﨑 厚夫上村 徳郎原田 隆二白石 幸三
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2014 年 47 巻 5 号 p. 329-333

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抄録

 症例は68歳, 女性. 右膿腎症のため右腎臓摘出後に慢性腎不全となり, 25年前より維持血液透析を施行していた. 3年前にシャント肢の腫脹を認め, 左腕頭静脈の狭窄を原因とした静脈高血圧症の診断で, 経皮的血管拡張術 (percutaneous transluminal angioplasty: PTA) を行い, 改善した. 今回, 静脈高血圧症が再発し, 血管造影検査で左腕頭静脈に高度の狭窄を認めたため, 9mm semi-compliant PTA balloonでPTAを施行した. しかし, 術直後に突然の喀血を認め, 急性呼吸不全をきたした. 胸部CT検査では, 両肺野に広がるスリガラス様の陰影を呈し, びまん性肺胞出血 (diffuse alveolar hemorrhage: DAH) と診断した. 喀血は一過性であり, 止血薬の投与と酸素の吸入により保存的に治療を行った. また, 内シャントを閉鎖した後に対側に再建術を施行した. DAHの原因はさまざまであり心不全, 肺塞栓症, 肺高血圧症, 腫瘍などの非免疫学的機序によるものと血管炎症候群や膠原病などの免疫学的機序によるものがあるが, PTAを契機としたDAHの報告はない. 本症例は, 自己免疫疾患の既往はないが, 血流過剰の状態である内シャントの中心静脈の狭窄を解除したことから, 右心系の血流が急増し, 肺胞の毛細血管内圧が上昇したためにDAHを起こしたことが考えられる. 合併症の多い長期透析患者に対してPTAを行う場合には, 増加する血流が患者に与える影響を考慮し, 慎重に治療の選択を行わなければならない.

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© 2014 一般社団法人 日本透析医学会
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