2021 年 54 巻 5 号 p. 241-247
重篤な先天性疾患を有する患者への透析導入の報告は限られている.症例は25歳男性で,出生時より多発奇形を指摘されていたが,確定診断はなされていなかった.慢性腎臓病にて近医往診加療中であったが,痙攣重積発作を機に当科入院となった.入院時に特徴的顔貌や脳梁欠損などから遺伝性疾患を疑って染色体検査を行い,Wolf‒Hirschhorn症候群と診断した.初診時すでに血清Cr 6.74 mg/dLであり,その後徐々に腎機能増悪したため,家族と十分な話し合いを行い,腹膜透析を開始した.しかし,溶質除去・除水ともに不十分となったため,血液透析に変更した.その後6年間安定した血液透析を継続できている.重篤な症状を呈する遺伝性疾患患者に対する透析療法の導入には倫理的かつ医療経済的に種々の難しい問題が存在するが,本症候群での過去の報告例は非常に少なく,貴重な症例と考えられたので報告する.