抄録
血液透析療法の確立により, 慢性血液透析患者の長期生存が可能となるにつれ, 種々合併症が問題とされている.
この1つとして, 慢性血液透析患者に認められる不規則抗体について検討することを目的とした. スクリーニング法には食塩水法, アルブミン法, 抗グロブリン法, ブロメリン法を併用し, 血液透析導入前, 導入後は3-6か月ごとにスクリーニングを行い, 不規則抗体の存在する場合には同定検査を行った.
その結果, 全く輸血歴がなく, 臨床症状もない2名の慢性血液透析患者に不規則抗体を検出した. 症例1は抗HI抗体であり, 抗体価は2倍であった. また, 患者の血液型はA1, Rh1rh (CcDee), NNss, Le(a+b-), P2で, 直接抗グロブリン試験は陰性であった. さらに, 成人O群赤血球を用いた寒冷凝集反応が32倍であることから, 本患者に検出された不規則抗体は抗HI特異性をもつ寒冷凝集素と考えられた.
症例2は抗P1抗体で, 抗体価は2倍であった. また, 患者の血液型はA1, Rh1Rh1 (CCDee), MMss, Le(a-b-), P2で, 直接抗グロブリン試験は陰性であった.
本邦では慢性血液透析患者に不規則抗体が認められたとの報告はきわめて少ない. しかし, 著者らの検討では慢性血液透析患者では従来, 最も不規則抗体が高頻度に認められるとされている経産婦群より高い. しかも, 慢性血液透析患者に不規則抗体が存在する場合, 患者が将来, 輸血, 手術, 腎移植等に遭遇する機会を考慮すると, 臨床上, きわめて重要な意義をもつことが予想される.
以上から, 慢性血液透析患者では不規則抗体のスクリーニングの必要性が痛感される.