人工透析研究会会誌
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透析導入前の治療
経口吸着剤の使用を中心として
小出 桂三遠山 純子井上 昇越川 昭三秋沢 忠男高橋 健日高 三郎田所 昌夫山根 至二山崎 善弥
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1982 年 15 巻 2 号 p. 89-102

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抄録
血液透析療法を中心とする血液浄化法の発達, 普及は, 慢性腎不全患者に大きな福音をもたらした. しかし透析患者数の増加に伴う透析医療費の増大は, 社会的ならびに経済的な問題を提起している. それゆえに, 腎不全の進行を抑制し, 透析導入を遅らせる透析以前の治療法の開発は社会的要望であった.
今度, 我々が研究している経口吸着用炭素製剤AST 120は, この目的のために開発された薬剤である.
保存的療法を実施している慢性腎不全患者 (血清クレアチニン4.3-13mg/dl) 42名にAST 120を3-12g/日投与した. そしてこれらの患者についてAST 120内服開始後6か月以上の経過観察, またはAST 120内服開始後透析導入までの追跡調査を行った. 対照としてAST 120の臨床治験を実施した病院において, 透析療法導入前3か月以上の自然経過を観察できた慢性腎不全患者37名をとった. そして次の点について比較検討した.
(1) 血清クレアチニン6mg/dl, 8mg/dl, 10mg/dlに達してから透析導入までの期間は, AST 120投与群では12.2±2.2か月, 8.3±0.9か月, 7.3±1.0か月であり, 対照群の5.8±0.8か月, 2.6±0.5か月, 約0.5か月と比較して明らかに透析導入までの期間を延長させることができた. (2) Life table法に準じて累積透析率を求めて血清クレアチニンが6mg/dl, 8mg/dlに達してから50%の患者が透析されるまでの期間を比較すると, AST 120投与群では14か月以上, 12か月であるのに対し対照群では4.5か月, 2か月であり, 明らかな有意差を認めた. (3) 腎不全の進行の指標となる1/Cr-時間プロットの傾斜をみるとAST 120投与後に傾斜はゆるやかになり, 腎不全の進行がおさえられていることが明らかにされた.
以上の成績よりAST 120内服により尿毒症毒素のような有害物質を吸着除去して透析導入を遅らせることが可能であると考える.
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© 社団法人 日本透析医学会
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