抄録
25名の血液透析者を対象に, 透析液のアルカリ化剤として用いられているacetateの循環動態に与える影響を検討するために, 透析回路を用いた体外循環下で透析液を灌流することなく, 酢酸ソーダ, 重曹, 生理食塩水を注入した. 生理食塩水注入では有意の変化を示さなかったが, acetate負荷によりtotal peripheral resistanceは低下し, その変化率と血清acetate濃度の間には負の相関を認めた. そしてtotal peripheral resistanceの低下とcardiac outputの上昇によりmean blood pressureは一定に保たれた. bicarbonate負荷時にも, 変化の程度は小さいもののacetate負荷時と同様の変化を認めた.
ここで個々の症例ごとに検討すると, 負荷開始前のtotal peripheral resistanceの価から対象患者を3群に分けることができた. Group Iはbasal vascular toneの低い低血圧群で, acetateおよびbicarbonateの負荷によりtotal peripheral resistanceの低下を認めなかった. 高血圧を示すGroup IIでは, 2剤のいずれの負荷でもtotal peripheral resistanceの有意の低下を認めた. Group IIIは正常血圧群でありacetateの負荷によりtotal peripheral resistanceの有意の低下を認めたが, bicarbonate負荷では低下を認めなかった. 以上の成績からGroup IIIは, 透析液のアルカリ化剤として重曹を用いることが望ましい患者群と考えられる.
またいわゆる酢酸透析と重曹透析の二重盲検試験から患者をacetate intolerance群とacetate tolerance群の2群に分けることができた. おのおのについてそれぞれacetate負荷による影響を比較検討したところ, 2群を分ける有用な指標はacetate負荷時の血清acetate濃度であると考えられた. したがってacetate intolerance群では, acetate代謝障害により高acetate血症を呈し, このため種々の不快症状が発現するものと考えられる.