人工透析研究会会誌
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運動療法により社会復帰したにもかかわらず精神障害をきたした1症例の看護
小林 敦子
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1983 年 16 巻 2 号 p. 97-100

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抄録
人工透析療法の発達は患者の長期生存を可能にし, 社会復帰を容易としている. しかし生涯にわたり透析療法を続けねばならない患者にとって, 精神的, 肉体的な負担は現在でも多大なものである. このような事態に対する患者の反応は, 患者の精神的発育の程度により影響される. 私達は運動療法後社会復帰したが, 精神障害をきたした男性患者の1例を取り上げ, 透析患者の看護について検討した. 症例は32歳男性, 未婚, 昭和48年4月から慢性腎不全のため血液透析を開始, この時, 会社を辞めた. その後家でブラブラして過ごしていたため, 社会復帰するよう指導したが, 就職しても長続きせず, 軽い労作でも動悸, 息切れを訴えていた. そこで体力に自信をつけて社会復帰する目的で54年12月から6ヵ月間運動療法 (心筋梗塞プログラム応用) を行った. その結果, 脈拍数, 血圧ともに運動療法実施後は, 運動負荷が増えているにもかかわらず, 脈拍数は負荷前より減少し, 血圧の上昇は軽度となった. 検査所見でもHtの上昇が見られた. 5月には, 体力に自信もつき自ら職を捜し就職した. 56年5月, 透析中ショックとなったが, 回復後急に不穏状態となり多弁, 異常な行動, 不眠, 幻聴などの精神異常をきたした. 57年1月にも約2週間同様の精神異常を認めている. 本例は幼児時代から母親が病弱なため, 一切の世話を父親から受けるという家庭環境にあって, 母親への不満と父親への依存傾向が増長されたと推測され, これらの状況が現在の未熟な精神状態に大きく影響していると考えられた. YG性格テストでは受動的, 無気力な性格が示され, ロールシャッハテストでは自我の弱い, 精神的未熟さが指摘された. 本例の看護指導において, 肉体的には運動療法により, 良い結果を得たが, 精神的には支持的な指導を続けるべきであった.
透析患者の看護指導は各患者の精神的発育過程および家族関係を理解した上での指導が重要と考えられた.
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© 社団法人 日本透析医学会
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