抄録
前報において, 著者らはモルモットの交感神経-平滑筋標本を用いて, 腎摘出ウサギおよび慢性腎不全 (CRF) 患者の血漿中に, 神経経由性の平滑筋収縮を抑制する物質が存在することを明らかにした.その抑制の程度は, 低分子量 (分子量500以下) の物質を含む血漿成分において著明であった.
そこで今回, 低分子量のuremic toxinsとして尿素, 尿酸, クレアチニンおよびメチルグアニジン (MG) に注目し, 前記の標本に対する作用を個々に検討した.これら4種の物質のテスト液中での濃度はsevereなCRF患者の血漿中濃度に模した.尿素 (200mg/dl), クレアチニン (20mg/dl) およびMG (200μg/dl) にはいずれも有意の効果が認められなかった.しかし, 尿酸 (10mg/dl) にはわずかながら (7±5%;平均±SD, n=7) 収縮増大作用が認められた.これら4種の物質を同時投与した場合にも増大作用が認められたが, その程度は尿酸単独投与の場合と同程度であった.
次に, 正常クレブス液中のK+, Ca++およびMg++の濃度をsevereなCRF患者の血漿中濃度に模して変化させた場合の作用を同様の方法で検討した.高K+ (9mM) 液には増大作用 (14±11%, n=7), 他方, 低Ca++ (1mM) 液および高Mg++ (2mM) 液には抑制作用 (それぞれ56±25%, n=9および13±4%, n=6) が認められた.また, これら3種の電解質濃度を同時に変化させた液に強い抑制作用 (60±21%, n=8) が認められたが, この液に前記の4種の物質を含ませるとこれらの物質による増大作用の分だけ抑制作用が弱くなった.
以上の結果から, 前報における血漿成分による平滑筋収縮の抑制作用は, 尿素, 尿酸, クレアチニンあるいはMGのいずれにも起因しないこと, 主にCa++を始めとする電解質濃度の変化が関与していると推定された.しかし, その他のuremlc toxinsが関与していることも予想され, 結論を得るには今後の研究が必要である.