抄録
透析患者では結核の有病率は高く, その病像も肺外結核の増加や, 粟粒結核の多発などの質的変化がみられることが報告されている. 今回, 不明熱と腹水を認め腹腔鏡検査にて結核性腹膜炎と診断し得た透析症例を経験した.
症例は55歳の男性. 結核の既往はなく, 50歳頃から慢性腎不全として加療, 52歳で血液透析導入. 入院3カ月前から食欲不振, 悪心, 嘔吐が出現した. 38℃台の発熱と腹水を認めた. 胸部レントゲン写真に異常なく, 腹部単純写真にて小腸ガスの増加がみられたが, 異常石灰化陰影は認められなかった. 貧血の増悪, 好中球増多, 血沈の亢進, CRP陽性を認めたが, 他の生化学検査は正常であった. 消化管精査にても特に原因病変なく, 腹部超音波およびCT検査にても, 腹水貯留以外に所見を認めなかった. 腹水穿刺液の性状は淡黄赤色, 浸出性でフィブリンの析出を認め, 細菌培養は陰性, 細胞診ではclass IIであった. 腹水の原因として癌性腹膜炎, 結核性腹膜炎などを疑い, 腹腔鏡検査を施行したところ, 腸管と壁側腹膜に粟粒大黄白色の小結節を多数認め, 線維性癒着を強く認めた. 結節部の生検にて類上皮細胞, 多核巨細胞からなる大小の肉芽腫を多数認め, 結核性腹膜炎と診断した.
抗結核療法を開始し, 臨床症状は改善した. 4カ月後に施行した腹腔鏡検査では腹腔内小結節は消失し, ほぼ治癒状態にあることが確認された.
透析患者にみられる原因不明の発熱, 腹水などの存在に対し, 肺外結核の診断並びに治療効果の判定に腹腔鏡検査は極めて有用な手段であると思われた.