抄録
重曹透析は酢酸透析に比べて代謝性アシドーシスの是正効果が大きい. 一方, アシドーシスではリンが細胞内から細胞外へ遊出し血清リン濃度は上昇するといわれる. このため重曹透析では酢酸透析に比べて血清リン濃度が低下する可能性が考えられるので検討した. また血清リン濃度と代謝性アシドーシスとの関係についても調べた. 対象は酢酸透析から重曹透析へ移行し, 他の透析条件や投薬内容に変更のない透析患者14名 (重曹透析移行群) である. また経口的重曹剤投与を開始し, 透析条件や他の投薬内容に変更のない透析患者12名 (重曹剤投与群) についても調べた. 検査値は定期検査4回 (8週間) の平均値を重曹透析移行前・後または重曹剤投与前・後で比較した. さらに血清リン濃度と血漿HCO3-濃度との相関性も調べた. 重曹透析移行群では移行後, 代謝性アシドーシスが改善し, 血清リン濃度は5.4±1.0から4.8±1.0mg/dlへ低下した (mean±SD, p<0.01). 重曹剤投与群では投与後, 血漿HCO3-濃度は上昇し, 血清リン濃度は5.6±1.0から5.0±1.0mg/dlへ低下した (p<0.05). さらに透析患者13名中, 6名にて血清リン濃度と血漿HCO3-濃度との間に有意の負の相関性 (p<0.05) がみられた. 以上, 代謝性アシドーシスを改善すると血清リン濃度が低下する傾向が認められたことにより, 重曹透析における血清リン濃度低下の機序はアシドーシスの是正効果が大きいことに関係していると思われる. 血清リン濃度のコントロールは二次性副甲状腺機能亢進症の予防上重要であり, またアルミゲル投与量を少なくすることもアルミニウム蓄積の面から大切である. 血清リン濃度を低下させる重曹透析は酢酸透析より長期管理上, 有利と考えられる.