抄録
慢性腎不全患者に, 悪性腫瘍を併発することは稀ではなく, その診断のために画像診断と同時に血清診断がしばしば用いられる. 腎不全血清中の腫瘍マーカーの正常域の偏位についての報告は少なく, 臨床上その評価が困難な場合がある. 従って腎不全時の腫瘍マーカー値の偏位を明らかにし, 腎不全血清における基準値を新たに設定することは日常臨床上意義があると考え以下の検討を行なった.
慢性腎不全74例 (保存療法17, 血液透析30, CAPD 27) でCEA, TPA, AFP, ELI, CA125, CA19-9, γ-Smを測定し, それぞれについて健常人81例のそれと比較検討した. 腎不全群ではCEA, TPA, AFP, EL1, が有意に高値で, γ-Smは陽性率が高かったが, CA125は両群とも測定感度以下であった. 各治療群間比較では, CEA, TPA, AFPは保存療法群に比べ血液透析群が有意に高値を示し, CAPD群と保存療法群では差を認めなかった. EL1では各治療群間に有意差を認めなかった. 腫瘍マーカーそれぞれの測定方法が夾雑物質の影響を受けにくいradioimmunoasseyであること, あるいは, 腎不全の程度と基準値の間に殆ど相関がないことから, 腎不全患者の腫瘍マーカー測定値が偏位する要因の主体はその分画も含む排泄の遅延によるものと考える.