日本透析療法学会雑誌
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慢性血液透析療法中に甲状腺クリーゼを来たした一症例
小野 哲也川上 公宏藤原 謙太長宅 芳男清水 泉岸本 卓巳永田 真澄岡田 啓成
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1989 年 22 巻 12 号 p. 1373-1377

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抄録

慢性腎不全あるいは長期血液透析患者における甲状腺機能異常としては, 多くの症例で甲状腺腫の有無にかかわらず機能低下が報告されている. 機能亢進症の合併例は極めて少く, 我々の検索した限りではこれまでに3例の報告をみるにすぎない. さらに甲状腺クリーゼを合併した症例はこれまで報告されていない. 我々は慢性腎不全で長期血液透析導入後に甲状腺クリーゼを合併した症例を経験したので報告する.
症例は27歳の女性で, 関節リウマチの治療の既往を有していたが, 腎不全で来院時には関節りウマチの所見は認められなかった. 初診時, 高血圧, 肺うっ血, 胸水貯留, 浮腫が著明で, BUNは103.9mg/dl, Crは9.4mg/dlであった. HDとECUMを頻回に施行し, 初診時に認められた発熱も軽快し, 肺うっ血も軽快しつつあった入院後10日目より高熱と頻脈を来たした. その後下痢を伴い, 15, 16日目に痙攣発作, 次いで意識混濁と不穏状態を示した. 15日目痙攣発作の時に甲状腺腫に気づき, ルゴール氏液, プレドニソロンで治療を開始した. 甲状腺ホルモンは16日目の測定では連日透析のためか著明には上昇していないが, 年末年始明けの入院20日目には著明な上昇が認められた. プロピルチオウラシルを併用し, 甲状腺ホルモンは低下し, 甲状腺腫も軽減した. 甲状腺部の局所炎症症状は全く認められず, 甲状腺の自己抗体は陰性なものの, 臨床経過より慢性甲状腺炎の経過中に発症した無痛性甲状腺炎により甲状腺クリーゼを来たしたものと推測される.

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