慢性透析患者の腸管での亜鉛の吸収能を検討するために, 14人の慢性透析患者と, 9人の健康人で, 亜鉛経口負荷試験を行った. 血漿亜鉛値は, 負荷前の基礎値では, 健康人が83.7±12.0μg/dl, 透析患者が67.5±16.8μg/dlと, 透析患者で有意に低下していた (p<0.05). 亜鉛負荷試験では, 慢性透析患者は, 健康人に比べて, 血漿中亜鉛濃度が, 負荷後1時間から3時間まで, 有意に低値を示していた (p<0.01). 負荷後の血漿亜鉛値の基礎値からの上昇値でも, 同様に, 透析患者では健康人に比べて, 負荷後1時間から3時間で有意に低値を示した (負荷後1時間p<0.05, 負荷後2時間p<0.01, 負荷後3時間p<0.02). また, 負荷後の血漿亜鉛値の上昇値のAUC4 (負荷後4時間までの血漿中濃度曲線下面積) は, 健康人で435.7±103.0μg・hr/dl, 透析患者で279.1±122.4μg・hr/dlと, 透析患者で有意に低下していた (p<0.01). また, 慢性透析患者でも, 活性型ビタミンD製剤 (ビタミンD) 投与群では, 健康人に比べて, 血漿中亜鉛濃度は, 亜鉛負荷前後で有意差を認めなかった. また, ビタミンD投与群では, ビタミンD非投与群に比べて, 負荷後の血漿亜鉛値の上昇値のAUC4が有意に高値であった. 以上より, 透析患者では腸管における亜鉛の吸収能が低下していると考えられ, このことが, 透析患者で血漿中亜鉛濃度が低い一因となっていると思われる. また, ビタミンDの投与が, 透析患者における亜鉛の腸管での吸収能に, 促進的に作用している可能性が示唆された.