抄録
酸性CAPD透析液の腹膜刺激性や腹腔内白血球の食菌能への影響が問題となっている. 新規に開発したNaHCO3 バッグ注入システムにより中性透析液を作成し, 長期の臨床的検討を行った.
対象は白鷺病院の安定期CAPD患者8名で, 平均CAPD期間は, 51.5か月である. 患者はダイアニールPD-2 (pH5.2) 使用している. 中性透析液は, 使用直前に注入システムによりNaHCO3をダイアニールPD-1に注入し, pH6.8, NaHCO3は6mmol/lとした. この患者に, 中性化PD-1による透析を5か月間行い, 使用前2か月と使用後3か月を対照期間として, 血液および排液の生化学検査, 排液中白血球の総数, およびviability, また問診票による症状の調査を行った.
中性化することにより, 血液HCO3- は使用前21.6mEq/lから24.4と有意に上昇した. 排液および血液Na, Cl, Mgは有意に上昇した. Naバランスは使用前171mEq/dayから190と負の方向に増加した. 総排液量は, 使用前9,005ml/dayから9,130と有意に増加した. 排液中の白血球数, およびviabilityはPD-2に戻すことにより増加した. 症状では, 腹部膨満感, 液注入時腹痛, 頭痛, 嘔気が減少した. 腹膜炎を含めた副作用は認めなかった. 透析液Na濃度を増加させたにもかかわらず, Naの蓄積はなく, また口渇や体重増加も認められなかった.
以上のことより, 少量のHCO3-の添加で, 液pHを上昇させた結果, 血液ガスが著しく改善し, 腹膜刺激性が減ったことが示唆された. また, 中性透析液が従来の透析液に比べ問題はなく, 有用であることが示された.