抄録
Famotidine (F) を減量して用いるべき血液透析患者に対し, 硬膜下血腫手術後にFが常用量投与され, 術後の意識障害が遷延したと考えられた2症例と正常腎機能で持続的脳室ドレナージを行っている1症例についてF血清および髄液中濃度を経時的に測定した. 症例1: 慢性腎不全にて透析中の75歳女性, 穿頭ドレナージ術後に痙攣が頻発し意識障害が遷延した. 手術当日よりF40mg/日が静注投与されており, 術後3日目の透析前F血清中濃度は419ng/ml, 髄液中濃度は160ng/mlであった. F投与中止4口後痙攣は消失し, 血清中濃度は94ng/ml, 髄液中濃度21ng/mlであり, F10mg/日を再開して4日後の血清濃度は99ng/ml, 髄液中濃度は9ng/mlで徐々に意識も改善した. 症例2: 急性腎不全にて透析中の67歳女性. 術前よりF10mg/日が静注投与されており, 穿頭ドレナージ術後も失見当識障害が持続した. F投与15日目の透析前血清中濃度は396ng/ml, 髄液中濃度は249ng/mlであった. F投与中止により, 約5日目 (術後15日目) より意識清明となった. 症例3: 正常腎機能の33歳男性. 経静脈的に40mg/日のF投与後4日目, 8日目の髄液中濃度は10ng/ml, 12ng/mlであった. 本3症例はいずれも血液脳関門は破壊された状態と考えられたが, 正常腎機能者では髄液中濃度は低値であり, 症例1, 2では排泄低下による薬物の蓄積が髄液中濃度の上昇を招いたと考えられ, 意識障害の程度と関連がみられた. Fは腎排泄性の薬物であり, 腎不全患者に用いるときは減量するべきであるとされており, 副作用発現を予防するために投与量について広く啓蒙すべきと思われた.