抄録
維持血液透析患者において透析後のANPは血液循環量を反映していると考えられ, 至適体重の決定に有用であると考えられてきた. しかし心不全患者においてANPが高値を示し心機能と密接な関係があることが知られている. また透析患者において心収縮能が正常であるにもかかわらず, ANP高値例も散見される. このためANPについては体液貯留状態以外に心機能, 特に心拡張能の関与を検討する必要があると考えるため, 透析後の血中ANP正常群, 高値群の2群に分け心エコー所見, 心機能を評価した.
血液透析後の血中ANP値により, 正常群 (<=75pg/ml) と高値群 (>75pg/ml) の2群に分け心エコー所見, 心機能, 平均血圧 (MBP), 左室心筋重量 (LVmass) について比較検討した.
心エコー所見では, 高値群は左室後壁厚 (PWT) 11.5±0.5mm, 心室中隔厚 (IVST) 11.5±0.6mm, 左室収縮末期径 (LVDs) 37.4±1.2mm, IRT (isovolumic relaxation time) 108±0.9msecと正常群のPWT 10.1±0.2mm, IVST 10.2±0.3mm, LVDs 32.9±1.0mm, IRT 82±3.3msecに比し有意な高値を示した. 一方左室拡張末期径 (LVDd), PEP/ET (pre-ejection phase/ejection time) はともに両群間には有意な差は認められなかった. 心エコーより算出した左室心筋重量は, 高値群269.6±18gと, 正常群219.1±12gに比し有意な高値を示した. 平均血圧, 除水率には両群間に有意な差は認められなかった.
以上の結果よりANP高値群においてIRTは有意な高値を認めたため血液透析後血中ANPが正常域に達しない透析患者では心収縮能よりむしろ心拡張能がより低下していることが示唆された. この拡張能の低下は左室肥大によるものであり, その結果左室および心房内圧が上昇しANP分泌が亢進していると考えられた.