日本透析療法学会雑誌
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長期透析患者の後天性嚢胞腎に腎癌の発生を認めた3例
檜井 孝夫田中 一誠春田 直樹大段 秀樹吉川 雅文中谷 玉樹宮本 和明大城 久司大久保 孝佐々木 伸博大上 和行
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1993 年 26 巻 6 号 p. 1219-1224

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抄録

我々は, 長期血液透析例に生じた後天性嚢胞腎Acquired cystic disease of the kidney (ACDK) に, 腎癌を合併した3例を報告した. 症例は, 47歳と46歳の男性2例と62歳の女性1例で, 主訴は, それぞれ左腰部痛, 血尿, 右背部痛, 透析歴は, それぞれ11年10か月, 15年7か月, 9年3か月であった. 術前画像診断では, 前2例に腫大した多発性腎嚢胞を, 他の1例で萎縮性嚢胞腎を認めたが, 嚢胞壁内および腎実質に石灰化像を認めたものの, いずれの症例にも, 明らかな腫瘍性病変を認め得なかった. しかし各症例とも, 症状の頑固な持続と明らかな増悪を呈すること, 画像診断で石灰化像を認めたことから, ACDKに合併した腎癌発生の可能性を考慮して, 手術に踏みきった. 手術術式は, 全例, 経腹的に両側腎摘術と腎動静脈起始部のリンパ節郭清を行った. 病理組織学的検索にて, 前2例に両側腎癌を, 他の1例で右腎癌を認め, 治癒切除が可能であった.
長期透析症例にACDKを合併した症例では, CTや超音波検査などの画像診断により, 腫瘍性病変の有無を定期的に検索することが基本的に重要である. しかし, 我々の経験した3例のように, 術前に, かかる病変を指摘し得ない症例も存在する. 従ってこのような症例を手術すべきか否かは, 議論の多い所であろう. 我々は, 今回の経験から, 疼痛や血尿などの症状が顕著で, かつ増悪傾向を示し, 画像診断で石灰化像を伴うACDK症例は, 相対的手術適応と考え, 積極的に両側腎摘を施行すべきと考えている.

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