抄録
症例は47歳, 男性, 糖尿病性緑内障で20%マンニトール4,500mlを点滴静注された. マンニトール投与開始翌日より, 昏迷状態となり, 意識障害の増悪, 尿量減少を認め当院へ転入院となった. 入院時, 意識昏迷で不穏状態, 皮膚はturgor低下や浮腫なく, 全体に湿潤かつ腫脹感を認めた. また, 著明な肺うっ血所見と心拡大を認めた. 生化学検査では, 血清尿素窒素44mg/dl, 血清クレアチニン6.6mg/dl, 血清ナトリウム99mEq/l, 血清浸透圧は348mOsm/kgH2Oであった. 入院時生化学検査値より計算された浸透圧値と入院時実測浸透圧値より求められたosmolar gapは, 115mOsm/kgH2Oであり, 極めて高値であった. 本例では, 腎臓からの最大排泄量を超えるマンニトールが投与されて血管内に蓄積し, 血清浸透圧が上昇した結果, 細胞内液が細胞外へ移動し細胞内液減少, 細胞外液増加の状態となり, 高張性脱水に見られる精神不穏・意識障害と細胞外液量の過剰によるうっ血性心不全・肺水腫の出現をきたしたと考えた. さらに, 急性腎不全も合併した. 血中マンニトールの除去を目的として, 入院時より低血流量 (100ml/min) で短時間 (3時間) の血液透析を2回施行し, 臨床症状, osmolar gap, 腎機能の速やかな改善を得た. マンニトールによる高浸透圧血症と精神不穏, うっ血性心不全・急性腎不全・低ナトリウム血症を呈した1例を報告した.