日本透析医学会雑誌
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recombinant human erythropoietin (ヒトエリスロポエチン製剤) による薬剤性肝障害を合併した慢性腎不全の1例
今村 吉彦石川 裕泰手塚 尚紀石川 道郎西沢 茂樹山本 田力也中村 良一長谷 弘記
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1996 年 29 巻 3 号 p. 213-218

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抄録

ヒトエリスロポエチン製剤 (recombinant human erythropoietin; rHuEPO) は, 腎性貧血の治療に極めて高い有効性を示しているが, その副作用は血圧の上昇や頭痛などが多く, 肝機能障害は稀である. 今回我々は, rHuEPOによる薬剤性肝障害をきたした慢性腎不全例を経験したので報告する.
症例は72歳女性. 約15年前から糖尿病の既往あり. 1994年12月糖尿病性腎症による尿毒症症状で本院入院となった. 入院時肝機能検査は正常で, アレルギー性疾患や輸血歴はなかった. 入院後腎機能が徐々に悪化し, 尿量の減少も認めたため, 1995年2月1日に血液透析を導入した. 腎性貧血に対してepoetin alfa (エスポー®) を1,500単位×3回/週の用量で導入時より開始したところ, 2月6日ごろより熱発, 全身倦怠感が出現し, 白血球数の上昇や肝機能障害 (T-Bil 2.0mg/dl, GOT 560U, GPT 637U, ALP 11.8U, LDH 1,550U) が出現した. 各ウイルス性肝炎, 伝染性単核球症は否定的で薬剤性肝障害を疑い, 投与薬剤を全て中止し肝庇護剤を投与したところ, 肝機能は速やかに改善した. その後も腎性貧血が持続していたため, 最も原因薬剤としての可能性が低いと考えたepoetin alfaのみを, 2月22日から再投与したところ, 再度肝障害が認められたため直ちに中止した. 中止後肝機能は正常化し, 症状も消失した. リンパ球刺激試験と抗エリスロポエチン抗体は陰性であった. 腎性貧血に対し輸血を行ったが, 効果が不十分なため, 3月17日からepoetin beta (エポジン®) を開始したところ, 副作用もなく腎性貧血も改善し現在も継続中である.
本例は, epoetin alfaの非意図的な再投与により薬剤性肝障害が再現し起因薬剤と考えられた. 透析患者に合併した薬剤性肝障害の原因薬剤としてrHuEPOも考慮する必要があり, その投薬には十分な注意を要すると考えられた.

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