日本透析医学会雑誌
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慢性腎不全透析患者の体液量の指標としてのANP, BNP, cyclic-GMPの臨床的意義
栗山 哲友成 治夫疋田 美穂吉田 裕明国枝 武彦四家 敏秀川口 良人酒井 紀
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1996 年 29 巻 7 号 p. 1143-1151

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抄録

慢性腎不全透析患者のドライウェイト (DW) 設定等の体液量管理に心房性Na利尿ペプチド (ANP), 脳性Na利尿ペプチド (BNP), およびこれらの細胞内のセカンドメッセンジャーであるcyclic-GMP (c-GMP) の相互関係や有用性を血圧, 除水量等との関連性から検討した.
血液透析 (HD) 患者で, 1) ANP, BNP, c-GMP各々のHD前値は正常値に比較し著しく増加していた. HD前の上昇したANP, BNP, c-GMP値はHD後に著減した. 特にc-GMP, ANPは正常値上限近傍まで減少した. また, 三者間にはHD前値, HD後値, 透析による変化値 (Δ) のいずれの測定においても相互に強い正相関が認められた. 2) HD前c-GMPは収縮期血圧 (SBP) と有意に正相関を認めたが, ANPとBNPは血圧と関連性は認められなかった. 3) Δc-GMPはHDによる除水率 (%ΔBW) と相関した. しかし, Δ%BWとΔANP, Δ%BWとΔBNPとの間には関連性は認められなかった. 4) 糖尿病性 (DM) 腎不全HD患者においては, HD前, HD後において三者間の相関が減弱, またΔANP, ΔBNP, Δc-GMP間の相関関係は消失した. DM群と非糖尿病 (non-DM) 群間での比較ではHD後のANP, BNP, c-GMPはDM群でいずれも高値を示した.
腹膜透析 (CAPD) 患者において, 5) HD患者同様ANP, BNP, c-GMP三者の値は正常値に比し著しく増加していた. 特にc-GMP, ANPは正常値上限に近く, HD後値にほぼ近似していた. 6) 三者間にいずれも強い正相関が認められた. 7) BNPはSBPならびに拡張期血圧 (DBP) と有意に相関したが, c-GMPとANPは血圧との関連性は認めなかった. 8) HD患者とは異なりDMの存在により6), 7) の相関関係が減弱あるいは消失することはなかった.
以上, HD患者では透析後のANP, c-GMP値を正常値上限近傍 (ANP<60pg/ml, c-GMP<20pmol/ml) に設定することで適正なDWの目安の一つとして有用である可能性が示唆された. ANPとc-GMPでは後者が体液量の変化をより鋭敏に反映しているものと考えられた. 一方, CAPD患者においてもANP, c-GMPの有用性は認められた. BNPはDWの指標としては使えないと思われた. DM合併HD患者ではc-GMP, ANPの有用性は減弱する.

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