日本透析医学会雑誌
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血漿BNPによる血液透析患者心筋障害の評価と心血管事故予測因子としての可能性
橋本 和明石黒 源之幾高 敏晴安江 由里香大熊 俊男鳥澤 昌紀井上 清明皆川 太郎高田 信幸平野 高弘森 甫松尾 仁司大橋 宏重渡辺 佐知郎
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1997 年 30 巻 2 号 p. 117-123

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抄録

心筋障害は長期血液透析患者の約4割に発生し, 患者の生命予後に大きく影響する. 心血管事故を予測することが可能であればその意義は大きい.
血液透析施行中の78例を対象とし, 前負荷軽減前後に血漿hANPと血漿BNPを同時測定した. 前負荷是正 (除水) 後の全例をhANPが100pg/ml, BNPが300pg/ml以上・以下で分類し4群に分け, 心電図上のST変化・心胸比・左室心筋重量・基礎疾患を比較検討した. hANPの区分はドライウェイトの設定が適切であると判断しうるといわれている100pg/mlに, BNPの区分は心不全症例のNYHA分類で川度の平均値といわれている300pg/mlとした.
2次元表示上, hANP<100, BNP<300; 前負荷管理良好非心筋障害群 (I群), hANP<100, BNP≧300; 前負荷管理良好心筋障害群 (II群), hANP≧100, BNP<300; 前負荷管理不良非心筋障害群 (III群), hANP≧100, BNP≧300; 前負荷管理不良心筋障害群 (IV群) と分類が可能と考えられた. ST変化陽性群では前負荷軽減 (除水) 前後とも, 血漿BNPが高値で, ST変化陰性群と有意な差を認めた (透析前: 632±337pg/ml vs 123±93pg/ml, p<0.01, 透析後: 587±301pg/ml vs 109±73pg/ml, p<0.01). 前負荷管理が良好であるI群とII群を比較すると, 心胸比はII群 (BNP高値群) に大であり (56±8% vs 51±5%, p<0.01), 左室心筋重量は134±33g/m2 (vs 125±29g/m2, NS) であった. II群 (BNP高値群) では基礎疾患で糖尿病が25% (I群は20%) 認められ, ST変化陽性例は有意に (42% vs 20%, p<0.01) 多かった. 前・後負荷の持続により生ずる遠心性求心性肥大では心筋重量の増加, 心筋虚血の進行が血中BNPの増加を規定していると思われた. 前負荷の補正により血漿hANPが改善して後も, 血漿BNPが高値を示す症例はハイリスクであり, 血漿BNPは血液透析患者の心血管事故の予測因子であろうと示唆された.

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