抄録
透析患者に発症する腎癌は長期透析の合併症の一つとして注目されている. 今回, 腎癌摘出術を行った透析患者の予後について検討を行った. 対象は1995年12月末までに東京女子医科大学腎臓病総合医療センターで腎摘出術を行い, 病理学的に腎細胞癌と診断し, 1996年4月に予後調査が可能であった透析患者43例である. 対象の年齢は20-80歳 (平均: 51.0歳), 男性37例・女性6例, 平均透析期間は121.1か月 (1-268か月) であった. 進行度はstage I: 14例, II: 20例, III: 5例, IV: 4例であり, 41例に治癒切除が行われた.
術後観察期間は2-162か月 (平均36.0か月). 観察期間中に9例が死亡, 死因は腎癌死2例, 他因死7例であった. 実測5年生存率は66.1%であったが, 癌特異的5年生存率は87.9%と良好で予後因子として腎癌以外の因子の関与が大きかった. また観察期間中8例に対側発症が確認され, 5例に両側腎摘が行われた. 両側発生の危険因子としては透析期間, 後天性多嚢胞化腎 (ACDK) の合併, 腫瘍の多発性が統計学的に有意であり, 全例男性であった. 透析歴10年以上のACDKに伴う癌多発の男性症例においては, 対側腎の定期的な観察の重要性が示唆された.
観察期間中, 43例に対し47腎の摘出手術が行われた. 術式は経腰的アプローチ31例 (34腎), 経腹的アプローチ13例 (13腎) であった. 手術合併症は17手術 (36.2%) に認められたが, 重篤なものはなく, 術式による差もなかった.
今回の我々の結果をみると, 透析患者の腎癌手術例の予後は非透析患者の腎癌の予後と比べ同等であるが, ACDKを伴う長期透析例においては対側腎の注意深い観察が必要であることが示された.