1999 年 32 巻 1 号 p. 49-52
症例は34歳, 男性. 22歳の時に腎生検にてlgA腎症と診断され, 29歳からCAPD導入となった. 32歳からは自動腹膜透析に移行していた.
1997年6月夜間, 透析中に特に誘因なく右腰背部痛を認め即時当院内科受診, 入院となった. 入院時の血圧は164/80であり, また採血検査上も以前と比べ貧血の進行は認めなかった. 腹部CTにて右腎破裂, 右後腹膜腔出血と診断した. 保存的に治療したが徐々に貧血の進行を認めたため, 同日緊急に経腰的右腎摘出術を施行した.
病理検査ではACDKに伴う多発性の腎癌が認められ, その一部からの出血と診断された. 組織診断はpapillary type, clear cell subtype, G1, INF-α, pT1, pV0であった. また腎癌病巣は最大でも直径約2mmであり術前の画像検査では診断不可能と思われた. 術後は血液透析に移行し特に問題なく退院した. 術後1年間経過したが明らかな再発および転移を認めていない.
透析患者の腎癌による後腹膜腔出血症例の報告は極めてまれである. 若干の文献的考察を加えて報告する.