日本透析医学会雑誌
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カリウム処方透析により難治性肝性脳症が改善した肝硬変合併血液透析患者の1例
大久保 泰宏塩崎 裕士猪瀬 和人
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2001 年 34 巻 10 号 p. 1325-1328

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抄録

肝性昏睡の増悪因子を特定できない肝硬変合併血液透析患者に対し, カリウム濃度3.5mEq/lの処方透析を行うことで, 意識状態の劇的な改善をみた症例を経験したので報告する.
症例は65歳, 男性. 肝硬変に罹患していたが, 腎不全を合併し平成11年血液透析導入となった. 平成12年6月意識障害のため入院. 肝性昏睡の診断で分枝鎖アミノ酸製剤, ラクツロース等を投与したが難治性で, 意識障害が続いた. 透析前後のカリウム値がそれぞれ3.5mEq/l, 2.6mEq/lであることから, 低カリウム血症が誘因であると推測した. 経口カリウム製剤を投与したが, 症状の改善はなかった. 透析後に低カリウム血症がさらに増強することが肝性脳症の増悪因子と考え, 透析液のカリウム濃度を3.5mEq/lに調整した処方透析を開始した. 開始後10日目から, 意識は急速に回復し, その後安定した状態が続いている. 肝性昏睡の増悪因子としては, 便秘・消化管出血・門脈-大循環シャントその他が知られているが, この症例ではそのいずれも該当しなかった. 除外診断および臨床経過から, 低カリウム血症が意識障害の誘因となっている可能性が示唆された.
透析患者で低カリウム血症となる症例は少なく, 同時に肝性脳症を併発するケースはさらに少数と考えられる. しかし, 長期透析患者の増加につれて, 同様なケースが現れてくることが予想される. カリウム処方透析は有効な透析手技の一つであることを念頭に置くことが必要であると考えられた.

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