抄録
症例は84歳, 男性. 慢性腎不全にて維持血液透析を施行中, 1999年4月8日に回転性めまいと嘔気を主訴に当院救急外来を受診し, 頭部CTにて左小脳出血と診断され当院脳神経外科に入院となる. 第2病日から血液中の浸透圧変化が少なくかつ抗凝固剤を用いない持続的自動腹膜透析を導入した. 神経症状かつ頭部CT所見の悪化なきことを確認しながら, 段階的に, 第12病日から血液濾過, 第40病日から血液濾過透析, 第54病日から血液透析と段階的に血液浄化療法を変更し救命した. 維持血液透析患者の脳出血例には, その後の血液浄化療法を施行するにあたり2つの大きな問題点がある. 第1に, 通常の血液透析では血清浸透圧を比較的急激に下げることによって頭蓋内圧を上昇させること, 第2に, 抗凝固剤の投与によって出血性病変を悪化させることがあることである. われわれはこの2つの問題点を回避すべく, 急性期の血液浄化療法として腹膜透析を選択し, 上記の段階的血液浄化療法を施行し救命に至った1例を経験した.