抄録
症例は60歳, 男性. 糖尿病性腎症による慢性腎不全のため平成9年11月より腹膜透析 (CAPD) にて管理中, 接触汚染による腹膜炎を繰り返し, 導入後わずか3年半で6回の細菌性腹膜炎を発症し, その度に抗生剤の投与で治癒していた. 平成13年6月23日, 腹痛, 排液混濁を認め, 同日7度目のCAPD腹膜炎と診断し, 加療を目的に入院した. 排液よりTrichosporon beigelii (T. beigelii) が分離培養され, fluconazoleの全身投与を行ったが, 効果を認めず, 発熱, 腹痛, 炎症所見が持続し, 第18病日, CAPDカテーテルを抜去し血液透析へ変更した. 薬剤感受性試験の結果よりmiconazoleへ変更, また, 腹部エコー, CTscanにて横隔膜下に限局した感染腹水を認めドレナージを施行した. 腹膜炎は軽快治癒したが, CAPDカテーテルの抜去およびドレナージが最も有効であったと考えられた.
T. beigeliiによるCAPD腹膜炎は, 本邦では小児例で1例報告されるのみで極めてまれである. 本症例は, 頻回の細菌性腹膜炎を繰り返し, またその度に抗生剤の投与を行っていたことが, 発症の誘因と考えられた.