2003 年 36 巻 8 号 p. 1343-1348
症例は83歳男性, 慢性腎不全に対し透析導入したところ頻回に血液回路内凝固を認め, 導入前17.8万/mm3あった血小板が第6回目の透析開始前1.6万/mm3まで低下した. DICの可能性が否定できずshunt血栓も生じたことからheparinの投与を増加したところ, 深部静脈閉塞, shunt閉塞, 肺塞栓症をきたした. Heparin加血小板凝集試験陽性からheparin起因性血小板減少症/血栓症と診断しheparinを全て中止したところ, 血小板数は速やかに回復した. その後, 抗PF4/heparin抗体も検出された. Heparin中止後も凝固異常が継続したが, 抗thrombin製剤のargatroban使用により改善した. また本症例は抗生剤によるアレルギー, 腹膜透析開始後の好酸球増多症, 複数の不規則抗体の出現などのアレルギー体質を認めた. HIT抗体産生のメカニズムは不明であるが, 背景にアレルギー体質などの免疫異常が関与する可能性も考えられ, 発症のリスクファクターを特定する意味において症例の蓄積が必要と思われた.