日本透析医学会雑誌
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悪性腫瘍を合併した慢性維持透析患者におけるPNI (prognostic nutritional index) 上昇の臨床的意義について
川田 真里子久保田 正幸
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2004 年 37 巻 4 号 p. 311-316

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抄録

われわれは前回の論文で, prognostic nutritional index (以下: PNI) が慢性維持透析患者においても客観的で総括的な栄養評価法であり, かつ測定時点の栄養状態を示す変数であることを報告した. 今回は2年間にわたり測定した健常人のPNIと透析患者のPNIおよび臨床経過を比較検討することで, 維持透析患者に適したPNIによる新たな栄養評価指数表を設けた. Poor nutrition (PNI≧40%), intermediate nutrition (40%>PNI>20%), good nutrition (PNI≦20%) の3型に分類した. さらに, PNIの臨床的意義をみるため, 毎年1月, 5月, 9月に観察したPNIの経時的変化と透析患者の臨床経過を比較した結果, 悪性腫瘍発症後にPNIが上昇していることが明らかになった. そこで透析患者が癌悪液質に陥っているリスクを定量化するため, PNIの最大上昇幅を上昇実測値max. と上昇率max. で評価した. 悪性腫瘍以外の群では上昇実測値max. は9.4±4.7〔SD〕%で上昇率max. は51.2±48.0%であったが, 悪性腫瘍群では上昇実測値max. は17.9±1.0%で上昇率max. は161.6±116.6%であった. 悪性腫瘍を発症した患者群の上昇実測値max. は悪性腫瘍以外の患者群と比較して有意に高値を示し(p<0.001), 上昇率max. も高値であった. この両群を比較検討して, 癌悪液質に陥っているリスクをdouble standardで表示した. High risk group (実測値≧20%かつ上昇率≧100%), intermediate risk group (20%>実測値>10%かつ100%>上昇率>50%), low risk group (実測値≦10%かつ上昇率≦50%) の3段階に分類した. 従って摂食行動の異常など明らかな臨床的要因が見当たらず, PNIがこのdouble standardに照らし合わせ, 特にhigh risk groupに変化した慢性維持透析患者については, 癌悪液質を合併している可能性をふまえて, 積極的に悪性腫瘍発症の有無を検索すべきであると考えられる.

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