2005 年 38 巻 5 号 p. 1195-1200
近年, 透析患者の心血管系の石灰化が患者の予後予測因子となるとの報告や, さらには, カルシウム (Ca) 含有リン (P) 吸着剤の過剰投与自体が透析患者の心血管系の石灰化を促進するとの報告がなされている. 今回, われわれは, Ca・P代謝異常や炭酸Ca処方量などの治療内容が心血管系の石灰化に与える影響を検討するために, 当院血液透析患者の腹部CTにて大動脈石灰化指数 (aortic calcification index: ACI) を, CTと同一日に施行された心臓超音波検査で弁の石灰化の有無を評価した. これらが評価できた患者101名の検査前48週間の炭酸Ca処方量ならびに患者背景, 血清Ca濃度, P濃度, Ca・P積 (Ca×P) などがACIや弁の石灰化に及ぼす影響を検討した. 重回帰分析でACIを上昇させる因子は加齢 (p<0.01), 高Ca血症 (p<0.01), 弁の石灰化を有すること (p<0.05) であり, 弁の石灰化を有する群では有さない群に比較して透析歴が長く (p<0.05), ACI (p<0.01), 血清P濃度 (p<0.05) ならびにCa×P (p<0.05) が高値であった. 炭酸Caの処方量は, ACIならびに弁の石灰化の有無に有意な影響を与えていなかった. しかし, 炭酸Ca処方量は, 血清補正Ca濃度と正の相関 (p<0.05) を示し, 重回帰分析の結果, Ca×Pを上昇させる因子となっていた (p<0.05).
今回の検討で, Ca・P代謝異常は心血管系の石灰化に関与すること, 炭酸Caの過剰投与は, 高Ca血症を介して透析患者の予後規定因子であるCa×Pを上昇させる危険性が示された. 今後は, 最小限の炭酸Caで高P血症を治療する必要があると考えられた.