抄録
一側腎に同時に腎細胞がんと移行上皮がんが認められた透析患者の1例を経験したので報告する. 症例は66歳男性. 腎不全の原疾患は糖尿病性腎症. 透析歴は25年. 2004年5月, 無症候性肉眼的血尿が出現. 近医で腹部単純CTを撮影. 萎縮しかつ嚢胞が多発した右腎に径約6cmの腫瘤性病変がみつかった. 精査加療目的で同年7月28日, 当科外来初診. 9月6日, 入院. 9月14日, 右腎腫瘍の診断で全身麻酔下に根治的右腎摘除術を施行. 術後の経過は良好であった. 摘出腎の病理学的検索の結果, 術前に指摘されていた径6cm大の腫瘤 (腎細胞がん: 淡明細胞がん+顆粒細胞がん, grade 2>3, INFα, pT1b) に加え, 径3cm大の腫瘤 (腎細胞がん: 淡明細胞がん+顆粒細胞がん, grade 2>1, INFα, pT1a) と径1cm大の腫瘤 (移行上皮がん, grade 3) が確認された. 組織学的にいずれの腫瘍にも明らかな静脈およびリンパ管浸潤は認められず, 切除断端は腫瘍細胞陰性であった. 患者の希望と病理学的検索の結果を踏まえ, 術後, 抗がん剤, インターフェロンなどは投与せず, 経過を観察している.