本研究では歌唱領域を中心に、タブレット利用学習事例を報告する。歌詞理解に関する授業展開では詩の学習として取り扱うために国語との合科的授業を行い、その際に意見を共有するため「ロイロノートスクール」を活用した。これは特定児童の意見や発言に偏ることなく、各自が興味を持ったり印象に残った歌詞を抽出したりしてその理由付けを行い、さまざまな考え方を共有してまとめ上げることによって、全員参加型の授業に変貌した。次に旋律の提示を行った。一般的な楽譜には、速度記号や発想記号、強弱記号等に見られる「楽譜上の指示」が随所にみられる。これらの指示に従って作詞作曲者が意図した楽曲を再現することが望ましいという考え方が主流であったが、従来は授業展開上どうしても提示したくないこれらの記号は修正液等で補正して児童に提示していた。その意図は、音楽の構造の理解や歌詞と旋律の関係性を「児童自身が気づき」、「児童自身の解釈」によって歌唱活動を行うことで楽曲に対する気持ちや思いが強まるからである。この活動でもタブレットを活用することで「旋律だけの提示」「旋律と歌詞の提示」など、授業展開に必要な要素だけを提示することが容易になった。児童が考える歌詞解釈による「歌唱の抑揚」は、必ずしも「旋律の高揚」と一致しない部分も多い。しかし、自分たちが意味づけした解釈によって再創作された「自分たちによる楽曲」では実際の歌唱表現において、より積極的かつ根拠を持った歌唱が見られ、児童全員がアクティブ・ラーナーになっていることが示された結果であろう。なお表題の無記号楽譜とは、筆者の造語である。