抄録
心室内伝導障害を伴う左心機能低下例では,両室ペーシングによる心臓再同期療法(CRT)を行うと予後が改善する.しかし,心房細動(AF)では労作や心不全の悪化などにより心室応答が速くなると心室ペーシング率が低くなるため,洞調律に比べて効果が低い可能性がある.本研究ではCRT施行例を洞調律およびAFの2群に分けて,心エコー図指標の変化と予後を比較した.対象は両室ペースメーカ植込み基準を満たした38例(年齢61±11歳,洞調律24例,AF14例)である.両室ペーシング率は2群とも95%以上であり有意差はなかった(p=0.84).AFで房室結節アブレーションを必要とした症例はなかった.CRT施行前に比べて施行6ヵ月後の左室収縮末期容積は両群とも有意に減少し(洞調律 −16±39ml,AF−26±38ml),その減少量は両室ペーシング率と有意な相関を認めた(r =−0.42, p<0.01, n=38).心不全による入院と心臓死をエンドポイントとし,平均25ヵ月の観察を行ったが,2群間でエンドポイント発生率に差はなかった(洞調律10例,AF7例, log-rank検定p=0.87).心不全に合併したAFではレートコントロール薬によって心室応答を調整し,高い心室ペーシング率を維持することで洞調律と同様のCRT臨床効果が得られる可能性が示唆された.