2014 年 34 巻 2 号 p. 118-126
近年,心室細動(VF)に関連する疾患として,J波症候群という新しい疾患群が提唱された.虚血性心疾患においてもJ波の存在やその変化は,心筋虚血とVF発生との関係を解析するうえで非常に重要である.われわれは,心筋虚血による超急性期のJ波の変化とVF発生の関係を明らかにするため,冠攣縮誘発試験施行例のうち虚血が誘発された67例において,J波とVF発生の関係を検討した.その結果,67例中14例において安静時心電図にJ波が存在していた.冠攣縮誘発による虚血に伴って,安静時心電図のJ波は14例中7例で増悪を示し,そのうち4例でVFに至った.一方で,安静時心電図でJ波が見られなかった53例のうち,4例で虚血に伴って新たなJ波が出現したが,VFは生じなかった.J波に変化がみられなかった49例のうち1例でのみ,VFを生じた.冠攣縮誘発試験前のJ波の存在は,冠攣縮誘発時のVF発生に関係した(OR 20.8,p=0.006).また,冠攣縮誘発時のJ波の増悪・出現もVF発生に関与した(OR 31.4,p=0.002).このことから,J波は冠攣縮誘発時の心筋虚血の超急性期において,VFに関係していることが示された.心筋虚血の超急性期におけるJ波を含めた特異な心電図変化を解析することは,虚血性VFや虚血性心疾患の突然死のリスク階層化にも有用と考えられる.さらに研究を進めていくことで,虚血性VFの機序や病態が解明し,治療に貢献していくことが期待される.