抄録
A型WPW疾候群の観察治療中に心筋梗塞を発症した1症例について, その梗塞発症前後の標準12誘導心電図, Frankベクトル心電図および空間心室gradientを比較検討した。
標準12誘導心電図では梗塞後V1-6のR波は梗塞前に比し著しく減高し, V2-4にcoronary Tを認めた。Frankベクトル心電図ではdeltaベクトル環は梗塞前後共ほぼ同じであったが, QRS環前方成分は梗塞後著明に減少し, 水平面のQRS-T夾角は開大した。梗塞前では空間心室gradientは, 正常伝導型およびWPW型波型の間でその大きさ, 方向とも比較的近似した。一方梗塞発症後, 空間心室gradientは大きさを減じ, 梗塞前よりも右後下方に著明に偏位した。
以上の結果より, 本症例においてはdelta波 (環) 以降のQRS波 (環) 形態に注目すると同時に, 空間心室gradientを計測し, 一次性ST-T変化を検出することにより, WPW症候群に合併した心筋梗塞の診断がある程度可能と考えられた。