急性下壁梗塞患者での退院時運動負荷心電図所見は, 胸部誘導にST低下を示す偽陽性例の頻度が高い.そこで著者らは, ST低下が出現する誘導から冠動脈狭窄を予測できるか, さらに運動負荷時胸部誘導でのST低下の機序について検討した.急性期の経皮的冠動脈形成術により有意の冠動脈狭窄を有さない27例をI群, いすれかの冠動脈に有意狭窄を有する18例をII群とした.胸部誘導でのST低下はI群で症例の37.0%, II群で83.3%に認められた.胸部誘導のST低下を示した症例の中で肢誘導のST低下を伴うものは, II群がI群に比して有意に高率であった (86.7%vs20.0%, p<0.01) .また, I群における左室壁運動異常の範囲は, 運動負荷時の胸部誘導ST低下度と弱い正相関を示した (r=0.43) .したがって, 肢誘導でのST低下は冠動脈狭窄の存在を示唆する所見であり, 虚血のない例における胸部誘導ST低下には壁運動異常が関与しているものと考えられる.