2000 年 20 巻 2 号 p. 120-126
動物実験で提唱されたischemic preconditioning現象と類似するものとして, ヒトでは1度狭心症発作を起こすとその後狭心痛が生じ難くなるwarm-up現象や, 経皮的冠動脈形成術時に冠閉塞を繰り返すと胸痛が軽減していく現象が知られている.前下行枝1枝病変の狭心症患者で心房ペーシング負荷と経皮的冠動脈形成術を行い, 短時間虚血を反復した際の心筋収縮性および心筋アデノシン代謝について検討した.いずれの短時間虚血でも1回目と2回目の負荷中の前負荷・後負荷に有意差はなかったが, 2回目の方が1回目に比し前壁局所壁運動はより低下していた.以上から心筋収縮性が2回目の負荷時に1回目に比しより低下したことが心筋酸素消費量を抑制し, 虚血を軽減したと推定された.また大心静脈血中アデノシン濃度は2回目の負荷時の方がより高値で, ヒトでの虚血耐性獲得にもアデノシンが関与している可能性が示唆された.